うやむやに、後始末の相談を始めるこの六人だった。魔王ヴェルゼーブ相手か……やっかいだな。

 改めて。超人将軍千秋。忍者時雨。戦士逢香。魔女真理。神官涼平。盗賊直人。ならば戦うにおいて前衛は戦士、忍者、神官となる。後衛は盗賊、魔女、将軍しかないか。

 逢香はいやいやをしながら語る。

「言いたくないけれど路も責任は真理と直人。まったく余計な仕事を義務とさせるわね」

「逃げた兵士千名が、まとめて向かっても魔王には敵いっこない。それならむしろ犠牲が少しでも減ったと評価すべきだ」

 との涼平の声に、千秋はぶうたれた。

「私の玉座を支える兵隊となると思ったのに。骨の無い連中ね」

「仕方ないさ。騎士や職業戦士とは違い、徴募兵は兵役期間を生き残ることをまず優先する。いくら脱走が死刑だからって、いま死ぬか後で死ぬかなら当然後を選ぶ」

「でもいいもん。時雨ちゃん一人いてくれるだけで、千兵に匹敵する」

「千秋ちゃんは僕を殺さないでね」

「ところで直人、貴方にぴったりのものがあるわ」

 言いつつ真理はおれになにやら透明なガラスの小瓶を差し出した。さらさらした細かい白い粉がなかなかずっしり詰まっている。麻薬?

 おれは酒こそ飲むが、決して他のドラッグには手を出さないのだが。まあ酒だって合法麻薬なのが事実だが。

「兵士の輜重物質に詰まっていたのを見付けたの。差し入れよ、直人。粉末ビール。水に溶かすだけで炭酸水が泡出してビールとして飲めるわよ。遠征にはいいわ。たっぷり二千リットル分はある。直人でも数百日は持つ量よ」

「え、酒を粉にするなんてそんな便利なものが……魔法か?」

「魔法というか、薬物生成の分野ね。歴史的にはかなり古いのだけれど、粉のまま一気に吸引したら即死する品物だからね。ま、直人なら平気でしょ。この瓶の他にも千兵の分として、一か月分はあるから困らないわね。ちなみにまともに買うと、めちゃ高価よ」

 横島直人に粉かけて……『こ』と『な』これは洒落ている。

 ふむ、飲むと死ぬ劇物でもあるし。これは毒としても使えないかな。はは、戦いばかり考えていると人間はこうも卑劣になるものだな。

 粉ビールを武器にするならクロスボウ・ピストルより、むしろおもちゃの水鉄砲向きだ。街に入ったら調達しよう。どうせ銅貨数枚で買える。

 それとも工芸技師に特注するか。圧縮空気噴射の威力水量桁違いの水鉄砲ではなく水大筒。火酒を入れるなら、火炎放射器にも使えるな。これを真理に打ち明けた。

 真理はすぐに実現化の方針を打ち立ててくれた。

「それなら揮発性の液化ガスを利用すれば好いのよ。気圧差で噴出して派手に燃え上がってくれるわ。私にまかせて、楽勝。魔法呪文の火炎弾なんかより簡単で威力も抜群。それに粉ビールは濃くするのなら、むろん火酒並みにアルコール度数強くできるわよ。炭酸だから吹くしね……というか、それなら単に地面にばらまくだけで致命的なトラップね」

 ここで村の警鐘が耳障りに響いた。これは敵襲か! 確認する……なんだ? 着込んだ鎖鎧からして、逃げ散った兵士どもの一部ではないか。そうか、食い詰めて山賊に鞍替えしたな!

 村人はおれたち六人を頼りにしている。ここは退けない! しかし打つ手はどうする? いまは毒物品切れだしいささか……

 と、真理は杖を高々と掲げ、呪文を詠唱していた。起死回生の秘策かな。しかし、それに殺到する百名あまりのもと兵士ども。

 ヤバい! 真理が危険に……バーサーク!

 酒酔いの狂気の精霊『アギラ』よ、おれに力を! しかしおれは賊の一突きで、意識を失していくのを感じていた。自分の非力さを呪うだけだった。