おれはこの窮地に場を仕切った。

「戦力を整理しよう。千秋閣下以下、参謀ことおれ直人とか。指揮する兵のいなくなったこの六名の王国軍……明確な指標情報がほしい。まずは個々の器量から」

 これに真理、千秋、時雨、逢香、涼平は賛同した。みんな事態に怯んでいない。この神経の太さこそが真なる熟練の証。逃げ散る並みの木端と変わらない雑兵とは違う。

 目下筆頭の女将軍閣下千秋は嬉々と提案した。

「他人の願いであれば、私に不可能はまずないわよ。指標情報……ま、こんなところね」

 と、突然中庭の虚空に鏡のようなものが現れた。そこには白面に黒字で、以下の文字と数値が記されていた。

 ……

盗賊直人 体力08 知性04 信仰07 強靭18 敏捷13 魅力14 計10.6

魔女真理 体力13 知性17 信仰10 強靭05 敏捷14 魅力16 計12.5

戦士逢香 体力14 知性14 信仰05 強靭13 敏捷16 魅力14 計12.6

神官涼平 体力17 知性13 信仰16 強靭11 敏捷05 魅力13 計12.5

忍者時雨 体力16 知性05 信仰00 強靭21 敏捷16 魅力08 計11.0

女将千秋 体力05 知性10 信仰08 強靭07 敏捷18 魅力18 計11.0

 ……

 まさかこんな魔法の鏡で個性を数値データ化されるとは思わなかった。

「おれが総計ではこの中で最弱か……」

「いや、こうしてみると直人でも平均の人間(10.5)より少し上なのだな。非公式なルールでは能力が平均以下の人間は冒険者になれないってされているけれど」

 涼平の感想に、真理が答えた。

「正確には、直人の数値は10.666……の無限循環小数ね、不吉。あ、逢香もか」

 おれはやれやれと言う。

「真理、逢香、涼平の能力は傑出しているな。並みの人間より二回り上だ……じゃなくて、人間の能力をこんな数値で計るのは馬鹿げているぞ」

「直人のような確信犯馬鹿にはそうだろうな。特に逢香さんは戦士でなくとも、魔法使いにも盗賊にもなれた。俺的には哀しいことに信仰心低いけれどね」

「涼平は盗賊以外なんでもこなせるわね」

「小さい頃は戦士になりたかった。極端なのろまさが理由で回復できる僧侶を選んだのさ」

 真理はクスクス笑った。

「へえ、神を信じているのは涼平だけか。この世界の創造主、きっと神を信じないのね」

 逢香は驚いている。

「って、時雨ちゃんの能力信じられない! 信仰0に強靭21って、既定の範囲(最低3最大18)を超えるわよ、反則! 神をも恐れないわね。直人ですら少しはためらいがあるのに。私よりほんの少し」

「おれを上回るマンチキンぶりだな。無敵だな、時雨警備兵総監閣下は。『いっぱんじん』と言える」

 将軍閣下の千秋がおれに喰って掛かった。

「私の時雨ちゃんのどこが一般人よ!」

「違う。人の道を逸脱している『逸般人』だ」

「アホか。身も蓋もない」

 言いつつ、辛い煙草の紫煙をクールに吹く涼平だった。おれは煙草こそしないが、強烈な火酒の小瓶を昼間から呷っていた。