「大勝利だったそうね。資金を失った悪鬼は、人間の影の後援者と縁切られて砦に籠れなくなり、逃げ散った。あとは野良犬同然。一枚十万円に相当する純金貨二百枚だなんて。まさか直人から酒おごられるとは思わなかった。下心あるの?」
「真理、おれが愛しているのはきみだけだ! いつまでも珠玉のように乙女な色気のない眼鏡女に……ふぐぅ!!!」
 真理は怒りもせず平静に当たり前のように直人を殴った酒瓶を、続いて直人の杯に注いだ。
「馬鹿ね。こんなの、直人らしくないわよ。変なものでも食べたの?」
「うるさい! 知性とは単に数字で論じるものではない」
「狡知ってやつか。ちなみに兵法で、巧遅はありえないとされるけれど」
「そんな他人からの引用が、知性とは違うさ」
「よく吹けるわね」
   ……
    ……
「……直人、起きなさいよ!」
 ……とここで、冒頭の王国軍伝令兵が来た後となる。おれは眠っていたな。真理は言って来る。
「直人あなた国王陛下に召喚されたわ。普通の庶民どころか盗賊が王宮に招かれるなんて、ありえないことよ。謀殺されたりして」
「魔法使いは妙なところ詮索するんだな。真理は知っているはず、逃げ散った小悪鬼は山狩りに遭い、ほぼ絶滅した。王国騎士団の兵士と、山の酒樽小人(ドワーフ)たちがね」
「酒樽、か。版権をクリアするのに苦労するわね。酒呑童子の伝説は世界に広まっているのかしら……ま、王国士官さまなら大丈夫でしょう」
「誰が王国士官さま?」
「横島直人、貴方を準士官待遇で、王国騎士団独立遊撃部隊、実戦部隊参謀に任ずる……とのことよ。下士官からさらに厚遇」
「おれはそんな器じゃないよ」
「すでに下った司令よ。任官拒否は死罪……ご確認までに。大出世じゃない」
「足かせをつけられたな……う……」
「え?」
 真理は問い返したが、おれはその場に泥酔し寝入っていた。意識が遠く飛ぶ……おれには不相応な天国へ。
  ……  
   ……   
 ……時空の源。つまりはるか異次元の天界にて。すべてを仕切るGMに向かって紙は言い張っていた。
「純金貨一枚十万円として普通の金貨は一枚百円と計算すれば、ざっと二百枚で経験値二十万点になるぞ」
「ったくおまえはそういうとこだけ、あざといよな。そうさ、2レベル以上一気にレベルアップできる」
「するとレベル11だな。一気にHPアップだ! 起きてみたら肉体改造だな」
「おまえの場合飲酒量だけ強くなりそうだな……ほう、28点アップか。強靭修正でさらに+30。計HP65点。これならドラゴンの一撃も耐えられるかもな。さあ、続行するぞ。マンチキン盗賊!」
 ……
  ……
   ……
 ……と、なにやら不思議な夢を見ていたようだが、ま、忘れた。目覚めると宿の部屋に丁重に寝かされていた。清潔なベッドだな、金も盗まれたりせず無事にある。これが王国軍士官としての身分か……なんか一晩で体力がついたな。盗賊スキルも冴えるのが解る。
 この朝には決心していた。おれは金を持って逃げる!
 だれが軍なんかに入れるか! 士官待遇、参謀だから守られるとかうまいこといって、所詮使い捨ての、よく吟遊詩人に『嗚呼愛国青年之憐れ。新米士官の寿命二週間』と謳われる最前線送りだろ!
 それにはまず身支度の買い物だ。強烈な火酒を購入する。これを火炎瓶として持ち歩くコマンドゥ! 投げナイフもあぶく銭にまかせて、六本用意した。腰のベルトに挟む。六連弾装拳銃並みに心強いな。って、この文明圏で銃はないか。
 なまじ金持っている服装はまずい。単なる旅人に思われるように皮革のコートを羽織るか。ガラではないので剣はいらない。代わりに各種の毒や薬を購入する。さらに値は張るが遠眼鏡と経緯儀も仕入れる。そして携行食に真水の革袋。
 ちなみに盗んだりしない。盗賊の仕事は縄張り荒らすとなまじ悪鬼よりよっぽど手強いギルドが敵になるからな。盗みはこれからだ、おれはどこででも生きていける。
 と、目を引く品物があった。拳サイズの弩……クロスボウ・ピストルか。威力こそ針を飛ばす子供のおもちゃで有効射程7m。当たってもミツバチに刺されたくらいのものだがおれには毒がある……こいつは良い、しかも弓が二重で二連発できる。
 いささか高くついたがこれをまさに子供のおもちゃのように喜ぶおれだった。片手で撃てるし、射的なら大の得意だ。練習して馴染もう。
 真理には悪いが、いまは遊んで三年は暮らせる金がある。いくぜ! いざ自由な楽園の田舎・辺境へ……