では貴方に教えてあげます、この世界を築く法則、『真実の魔法』を。
最初に踏まえるべきは貴方の資質です。体力や知性や精神力より、なにより魂の置き場所と使い方と管理が大切なのです。
いちいち覚えなくてもかまいません。忘れても、ひとたび身に就いた魔力は貴方から消えはしないのです。貴方が澄んでいる限りは。だから。
まずひとつ。暗い所から明るい所は良く見えるけれど、明るい所から暗い所は見えないものです。これは闇に身を置いたものにしか解らない事実でしょうね。
つまり、お偉い裕福なお幸せな家庭からは、どん底の貧乏人の極限に切り詰めた生活ぶりなど想像も付かないという筋書きです。
だからもうひとつは、良く誤解されていますが、魔法が使えればファンタジーというわけではないこと。宇宙船に乗るだけではSFではないこと。剣や銃が使えるだけでは戦士ではないこと。徴兵されれば兵士にはなれますが、戦士の名で呼ばれるとは程遠いこと。
たとえどれだけの力があっても英雄にはなれませんし、どれだけの知性があっても天才とは呼べません。兼ね備えてもそれ自体が短所となります。万能なんてありえない。
ゆえにこの二点からの結論は、意志さえあれば、子供だって勇者となれる事実です。決して戦争の道具としての英雄ではなく、弱者を守るための志士足れば。
十代の青春時代なんて、二十五歳も過ぎてから憧憬に思い返すだけで。現実は残酷な罠の仕掛けられた見えない真っ暗な迷路を手探りで進んで、ぶつかって転んで傷だらけ……これは体験されたでしょうか?
それでも立ちあがり、人はみな笑って。泣いてもいい。怒ってもいい。さらに歩き続ける意志が消えないならば。
この意志こそが、ほんとうの『魔法』です。さあ、貴方は身に付けました。もう、忘れていいですよ。くだらない、つまらない戯言でしたね?
だけれど興味があるのなら、この先を見て……聴いて。この世界をどこか変えるために、それとも守るために……
でも『世界』ってなんでしょう? それを人は良く『夢』とか『希望』とか『神』……などと呼びますね。
これらの『絆』の連鎖で構成されているのが、包括的に言う『宇宙』なのです。
貴方は違うもっと素敵な答えを持っているかもしれないですけれどね。
あら? 貴方もお人好しね。では続き。
世に出回る安っぽいドラマやアニメとかの、各種メディアの虚構の恋愛もの悲喜劇の様な、そんな明るい青春を送れる人なんて滅多にいないものです。
現実と自分の能力差から来る劣等感と、優位に立ちたい薄っぺらな虚栄心で弱者を傷付けて来ませんでした? 心当たりが無いことはないでしょう。
だけど最低の人はそれを罪と思うどころか、自分を最低の人生と信じ込み、他人を能力があるからって悩みを持たず幸せに生きているヤツは気に入らない、などと妬みそいつを貶し傷付けても恥じないものです。これこそが、心に『悪魔』が潜むって話です。
つまりこれが真実の悪魔……さあ、刻みましたね。忘れていいですよ。
あ……貴方は変わりものですね。
自己紹介します。私はイミナ。諱、真の名の伝道者です。
これから記すのは、ある魔力を秘めたごく一部のもたらした、ちっぽけな奇跡の物語です。
それはどこかで、いつかの話。致命的な伝染する疫病に晒され、医師にも見放されて全滅しかかったとある真冬の街角でした。
その中で『彼女』は違った。もはや助からない血反吐にむせ返るばかりの患者の背をさすり、飲食に下の世話をし、ひたすら励ましていたのです。医師でも看護師でもないのに。
医師は「そんなこと、医学的になんら意味がない、危険なだけだ」と諌めました。
が、彼女は「病人の面倒見るのは当たり前です」、として譲らなかった。ただ優しく死を看取っていた。
患者は「ありがとう」とだけ感謝して死んでいくばかりでした。
それなのに街の市民は、「病気がうつる、汚い、近寄るな!」と彼女をはねつけた……。
彼女は心にある意味での『神』を宿していたのかもしれません。
それなのに健康な『善良市民』は嘲笑したのです。「とんでもない愚か者」、と。
同時に、心に悪魔を宿した『男』がいました。男は街の市場で、安い買い物をした。
「小麦粉半袋に、マキを三本、塩を瓶に少しくれ」
「あいよ! 酵母は持っているのかい? パンを作るのだろ」
「ああ、持っているさ」
それらを買うと、男は借り宿の暖炉でマキを燃やして暖を取り、小麦粉に塩と、なんと暖炉の灰を混ぜて、少し湿らせて何百個ものごく小さい団子状に丸めて瓶に詰めた。
男はこの疫病を利用し、偽薬の売買で儲けていたのです。
危険な疫病の区域には近寄らず、裕福な家庭に立ち寄っては「流行り病に掛からなくなる薬です。残り少ないですが、貴方に特別にお売りしますよ」と、法外な額を貰っていた。
それでいて、相手からは「貴方は命の恩人です」と尊敬されていた。皮肉なことです。
結果は。二人とも死にました。彼女は自ら疫病に感染し、男は金目当ての追い剥ぎに襲われてあっけなく。救いが無いです。
だけど……だから。
真実の愛の持ち主として生きることです。個人の医療技術が優れていても、その想いが欠けていれば意味がありません。
困難だけれど。古来続く誓いの印、指輪のように。
後一つの美徳は誠実さです。いいえ、嘘もときには、相手のためならば吐いていいのです。しかし、自分を美化するのは見苦しく間違っています。
誠実さを捨てることは、他人を辱めると同時に自らの尊厳を損なう行為です。私はそこまで献身的ではないですが。
学生なら劣等生であれ、決して不正をしないのが最上の美徳です。社会人なら汚職をしないこと。
しかし現実は理想と遠い。争いが絶えず、競い奪い合うものです。
こんなこと無論公正ではない。不公平もいいところです。しかし、どうしようもないことは貴方もよく解っているはず。愚かであれ、実直に。
愚かとはいいますが、学歴を誇ったところで賢いとは呼べないのに。誠実に生き、愚かと呼ばれ死んだ彼女。欺瞞に生き、世の中を軽蔑していたのに尊敬され、殺された男。
前者は死に逝くものたちから感謝され、後者はその奪われた財で、これまたある意味強盗からありがたがられた。これが、ちっぽけで残酷な奇跡です。
でもどちらが素敵な生き方かは……異論はあります?
これらが本当の『魔法』と呼ばれるもの。ご都合主義な迷信魔法と違う。
すみません、いささか貴方を傷付けたかもしれませんね。この魔法は子供の夢とは程遠いけれど、夢すら忘れた大人からすれば、こちらの方がはるかにファンタジーです。
さあ、忘れて。
まだ就いて来られるのですか? では最後に。
だから……これらの現実の前に、真摯に生きることは。史上空前、そして絶後になるでしょう。絶後……それは勝っても負けてもそうであることを祈りましょう。
問題なのは皆が『生きる』ことであって、同胞同士殺し合うことではない。決して……戦争なんて絶対にいけない、馬鹿げています!
尊厳に誓って、平和を謳うのがこれからの在り方。人は相互理解を進める文化があります。その文化の根が会話であり、異国間の言葉の壁が大きく長らく立ちはだかりましたが、それもこの情報化社会により払拭されつつあります。
ただ明日へ進むのみです。人間の世は、平和に保てれば数万年は繁栄します。それから進化の波にさらわれて種として滅ぶか、新たな生態系を築くか……。地上の生態系は、数億年は持つはず。まさか数千万年で途絶えはしないかと。
人類のような馬鹿が地球を滅ぼさない限りは、ですがね。人類の歴史と比較すれば、地球生命の歴史はその数万倍です。一句できました。
『瀬戸際で いまを輝く 徒花よ』……拙いですが。
でも賢く生きれば、自己犠牲の必要も無く、心に悔い無く、かつ人々から愛され真に尊敬されて天寿をまっとうできるはずですよ。いつかのようにね。
貴方は知りませんか。歴史上で人間がもっとも愚かに生き、もっとも崇高に戦ったころの話を。戦いが殺し合いとは別の意味で。
過去の犠牲が無駄になることはいけません。求められているのは調和です。これに取り組む意志が、魔法の奇跡……。
まだ手遅れではないはず。問題を解くのは貴方の役目です。魔法使いとして……立ちましょう。
気付いていますね、魔力は貴方の内にあると。大きくなくとも、どこかに。それに手を伸ばして。宴はそれからです。
貴方はもう立派な魔術師。たとえ途方もなく弱く愚かで不器用であれ、ね。さあ、行って。貴方の生きるいまへ。そして。
もはや、すべてを忘れていいのですよ。
(終)
追記……youtube 忘れてもいい魔法の話 ←動画検索を
最初に踏まえるべきは貴方の資質です。体力や知性や精神力より、なにより魂の置き場所と使い方と管理が大切なのです。
いちいち覚えなくてもかまいません。忘れても、ひとたび身に就いた魔力は貴方から消えはしないのです。貴方が澄んでいる限りは。だから。
まずひとつ。暗い所から明るい所は良く見えるけれど、明るい所から暗い所は見えないものです。これは闇に身を置いたものにしか解らない事実でしょうね。
つまり、お偉い裕福なお幸せな家庭からは、どん底の貧乏人の極限に切り詰めた生活ぶりなど想像も付かないという筋書きです。
だからもうひとつは、良く誤解されていますが、魔法が使えればファンタジーというわけではないこと。宇宙船に乗るだけではSFではないこと。剣や銃が使えるだけでは戦士ではないこと。徴兵されれば兵士にはなれますが、戦士の名で呼ばれるとは程遠いこと。
たとえどれだけの力があっても英雄にはなれませんし、どれだけの知性があっても天才とは呼べません。兼ね備えてもそれ自体が短所となります。万能なんてありえない。
ゆえにこの二点からの結論は、意志さえあれば、子供だって勇者となれる事実です。決して戦争の道具としての英雄ではなく、弱者を守るための志士足れば。
十代の青春時代なんて、二十五歳も過ぎてから憧憬に思い返すだけで。現実は残酷な罠の仕掛けられた見えない真っ暗な迷路を手探りで進んで、ぶつかって転んで傷だらけ……これは体験されたでしょうか?
それでも立ちあがり、人はみな笑って。泣いてもいい。怒ってもいい。さらに歩き続ける意志が消えないならば。
この意志こそが、ほんとうの『魔法』です。さあ、貴方は身に付けました。もう、忘れていいですよ。くだらない、つまらない戯言でしたね?
だけれど興味があるのなら、この先を見て……聴いて。この世界をどこか変えるために、それとも守るために……
でも『世界』ってなんでしょう? それを人は良く『夢』とか『希望』とか『神』……などと呼びますね。
これらの『絆』の連鎖で構成されているのが、包括的に言う『宇宙』なのです。
貴方は違うもっと素敵な答えを持っているかもしれないですけれどね。
あら? 貴方もお人好しね。では続き。
世に出回る安っぽいドラマやアニメとかの、各種メディアの虚構の恋愛もの悲喜劇の様な、そんな明るい青春を送れる人なんて滅多にいないものです。
現実と自分の能力差から来る劣等感と、優位に立ちたい薄っぺらな虚栄心で弱者を傷付けて来ませんでした? 心当たりが無いことはないでしょう。
だけど最低の人はそれを罪と思うどころか、自分を最低の人生と信じ込み、他人を能力があるからって悩みを持たず幸せに生きているヤツは気に入らない、などと妬みそいつを貶し傷付けても恥じないものです。これこそが、心に『悪魔』が潜むって話です。
つまりこれが真実の悪魔……さあ、刻みましたね。忘れていいですよ。
あ……貴方は変わりものですね。
自己紹介します。私はイミナ。諱、真の名の伝道者です。
これから記すのは、ある魔力を秘めたごく一部のもたらした、ちっぽけな奇跡の物語です。
それはどこかで、いつかの話。致命的な伝染する疫病に晒され、医師にも見放されて全滅しかかったとある真冬の街角でした。
その中で『彼女』は違った。もはや助からない血反吐にむせ返るばかりの患者の背をさすり、飲食に下の世話をし、ひたすら励ましていたのです。医師でも看護師でもないのに。
医師は「そんなこと、医学的になんら意味がない、危険なだけだ」と諌めました。
が、彼女は「病人の面倒見るのは当たり前です」、として譲らなかった。ただ優しく死を看取っていた。
患者は「ありがとう」とだけ感謝して死んでいくばかりでした。
それなのに街の市民は、「病気がうつる、汚い、近寄るな!」と彼女をはねつけた……。
彼女は心にある意味での『神』を宿していたのかもしれません。
それなのに健康な『善良市民』は嘲笑したのです。「とんでもない愚か者」、と。
同時に、心に悪魔を宿した『男』がいました。男は街の市場で、安い買い物をした。
「小麦粉半袋に、マキを三本、塩を瓶に少しくれ」
「あいよ! 酵母は持っているのかい? パンを作るのだろ」
「ああ、持っているさ」
それらを買うと、男は借り宿の暖炉でマキを燃やして暖を取り、小麦粉に塩と、なんと暖炉の灰を混ぜて、少し湿らせて何百個ものごく小さい団子状に丸めて瓶に詰めた。
男はこの疫病を利用し、偽薬の売買で儲けていたのです。
危険な疫病の区域には近寄らず、裕福な家庭に立ち寄っては「流行り病に掛からなくなる薬です。残り少ないですが、貴方に特別にお売りしますよ」と、法外な額を貰っていた。
それでいて、相手からは「貴方は命の恩人です」と尊敬されていた。皮肉なことです。
結果は。二人とも死にました。彼女は自ら疫病に感染し、男は金目当ての追い剥ぎに襲われてあっけなく。救いが無いです。
だけど……だから。
真実の愛の持ち主として生きることです。個人の医療技術が優れていても、その想いが欠けていれば意味がありません。
困難だけれど。古来続く誓いの印、指輪のように。
後一つの美徳は誠実さです。いいえ、嘘もときには、相手のためならば吐いていいのです。しかし、自分を美化するのは見苦しく間違っています。
誠実さを捨てることは、他人を辱めると同時に自らの尊厳を損なう行為です。私はそこまで献身的ではないですが。
学生なら劣等生であれ、決して不正をしないのが最上の美徳です。社会人なら汚職をしないこと。
しかし現実は理想と遠い。争いが絶えず、競い奪い合うものです。
こんなこと無論公正ではない。不公平もいいところです。しかし、どうしようもないことは貴方もよく解っているはず。愚かであれ、実直に。
愚かとはいいますが、学歴を誇ったところで賢いとは呼べないのに。誠実に生き、愚かと呼ばれ死んだ彼女。欺瞞に生き、世の中を軽蔑していたのに尊敬され、殺された男。
前者は死に逝くものたちから感謝され、後者はその奪われた財で、これまたある意味強盗からありがたがられた。これが、ちっぽけで残酷な奇跡です。
でもどちらが素敵な生き方かは……異論はあります?
これらが本当の『魔法』と呼ばれるもの。ご都合主義な迷信魔法と違う。
すみません、いささか貴方を傷付けたかもしれませんね。この魔法は子供の夢とは程遠いけれど、夢すら忘れた大人からすれば、こちらの方がはるかにファンタジーです。
さあ、忘れて。
まだ就いて来られるのですか? では最後に。
だから……これらの現実の前に、真摯に生きることは。史上空前、そして絶後になるでしょう。絶後……それは勝っても負けてもそうであることを祈りましょう。
問題なのは皆が『生きる』ことであって、同胞同士殺し合うことではない。決して……戦争なんて絶対にいけない、馬鹿げています!
尊厳に誓って、平和を謳うのがこれからの在り方。人は相互理解を進める文化があります。その文化の根が会話であり、異国間の言葉の壁が大きく長らく立ちはだかりましたが、それもこの情報化社会により払拭されつつあります。
ただ明日へ進むのみです。人間の世は、平和に保てれば数万年は繁栄します。それから進化の波にさらわれて種として滅ぶか、新たな生態系を築くか……。地上の生態系は、数億年は持つはず。まさか数千万年で途絶えはしないかと。
人類のような馬鹿が地球を滅ぼさない限りは、ですがね。人類の歴史と比較すれば、地球生命の歴史はその数万倍です。一句できました。
『瀬戸際で いまを輝く 徒花よ』……拙いですが。
でも賢く生きれば、自己犠牲の必要も無く、心に悔い無く、かつ人々から愛され真に尊敬されて天寿をまっとうできるはずですよ。いつかのようにね。
貴方は知りませんか。歴史上で人間がもっとも愚かに生き、もっとも崇高に戦ったころの話を。戦いが殺し合いとは別の意味で。
過去の犠牲が無駄になることはいけません。求められているのは調和です。これに取り組む意志が、魔法の奇跡……。
まだ手遅れではないはず。問題を解くのは貴方の役目です。魔法使いとして……立ちましょう。
気付いていますね、魔力は貴方の内にあると。大きくなくとも、どこかに。それに手を伸ばして。宴はそれからです。
貴方はもう立派な魔術師。たとえ途方もなく弱く愚かで不器用であれ、ね。さあ、行って。貴方の生きるいまへ。そして。
もはや、すべてを忘れていいのですよ。
(終)
追記……youtube 忘れてもいい魔法の話 ←動画検索を