次の論点に移る。大麻草……二酸化炭素削減に砂漠緑化計画。しかし竹田は苦しげだ。

「資金が必要だった。この非常時を乗り切るための軍資金が。麻薬性の無い大麻草の栽培は、プロパガンダに過ぎない。私は、莫大なマリファナ利権が欲しかったのだ」

 ここではっとみんな竹田に聴き入った。竹田は続けた。

「しかし、それを避けるための研究が地球を滅ぼすとは! なんと愚かな……

 ……大麻草は代謝が良過ぎ、他の植物を駆逐しながら地表を埋め尽くして代謝して成長し、大気中の二酸化炭素を過度に吸収する。バイオハザードとなり二酸化炭素が欠乏する。すると地質学上数回見られた、自然植物の大絶滅となる。

 次いで酸素が減る一方になり、動物も死に絶える時代が来る。酸素の激減期が始まる。

 これの繰り返しは過去の氷河期にあった。しかし、止めようのないメタンハイドレートのメタンガスの連鎖的大発生で、極端な温暖化が起こるから過去と話は違う。

 メタン排気で温室効果が加速度的に進むから、氷河期を迎えない。これでは過去のような生態系の復活は不可能……人間が対処するにもスタグフレーション経済では至難。

 ……お金とは社会を回転させる燃料に過ぎない。紙幣貨幣それ自体に、数値面ではなんら意味も価値もない。拝金主義も終わる。資本主義経済の限界」

 竹田の言葉に、僕は反論した。

「しかし理想的な政治とされる共産体制だって資本経済にとっくに駆逐されている。「きけ、わだつみのこえ」では特攻隊員が共産主義をほのめかしているが……これは作為か? 東大慶大当たり前の優秀な青年たちの本音だろうか」

「だから目指す理想は……全世界的に統一された政府ではなく、自由民主主義資本体勢でもなく、ただ世界各国万民が解放された世界……」

 この竹田の言葉にも、僕は意見した。

「日本銀行で年間流動するお金は二千兆円に達するとされる。これは数十年で重なった国債をも上回る……もちろん、単に回転するお金。すべてが利益にはならないけれど。でも財政改革で法人税とか下がったけれど、国債とは国が国民にする借金のはずなのにこれでは政府が巨大企業の言いなりになってしまう。消費税はもっと増税、つまり弱者の権利なんて踏み付けられて……ほんらい一千万円以上みんな貰ってもいいのに」

「法人税は外国よりまだ高めとはいえ。ここへきて私が推し進めたキメラの開発……危険と思うだろう? 違うのだ。キメラは本来、人間の味方として開発された。たしかに兵器ともなるが、労働力や医療目的として。ショゴスのように移植用臓器器官として」

「しかし、野心家に武力として使われてしまった。そうですね? その責任は誰にあるかも明白。追求する気はありませんが」

「誰かが言っていたが。戦いの中でしか生きる道を見出せないとは狭量に過ぎる。生物兵器だなんて! 狂っている。どこぞの狂人がでっち上げたシナリオか……」

 斎藤が割って入り肯いた。

「はい、魑魅魍魎からはどんな生物が誕生するか解りません。故に拙者は志士として立ったのです。不思議な事に宇宙のどこかにハムの惑星があって、みんながそこへリゾートに来ることを何故か知っているのですよ」

 ……このケダモノのいうことは、今回ばかりは無視せねば。いくら僕でも。

「時事にも科学にも疎い素人の自称批評家は、国際的・人道的・倫理的に遺伝子操作なんて実現はあり得ないなんて吹くけれど半世紀も前から大陸間弾道核ミサイルで、全生命を10回滅ぼしてもお釣りがくる現状を無視しているんだ」

「ですからすべてにいま、必要なのはまさに愛です。だから拙者は歌うのです。よほど愛に満たされていない、戦地の飢え渇いた貴方たちへ向けて……」

 日本を侵略しても無価値と思わせるのが主眼か……知的財産しかないなら、戦禍はそれを損なう愚行だからな。科学技術立国として自然の立場だ。

 世界地図で見ると中国大陸の朝鮮半島を『盾』で包む様に日本列島の領海は伸びていて、これは生活難に苦しむ貧しい地方なら水産資源として垂涎の的だろう。おまけにメタンハイドレート燃料資源。土地も狭いが田畑は肥え水源も恵まれている。

 これらの一連のさまざまな破滅的危機は互いに反抗を意図したのもあるが、それより皮肉にも不特定多数の個人プレーの独奏から生じたのか。なんと愚かしい。

 ここで最悪の報が入った。焔が端正な顔を歪め陰鬱に言う。

「あの高倉が指揮官として出撃した。目的は暗愚にも、キメラによる大麻草栽培の撲滅……を表向きとする侵略と暴行だな。自分を正義と信じて疑わない、か」