斎藤に言われるままに、AT検索をした……その記事は僕を打ちのめすものだった。

 東京の一角がスラム街になっている!? 通称『ジャンク・アベニュー』……魑魅魍魎が闊歩する無法地帯。この事実の前には、僕個人の働きなど幼稚園のお遊戯だ。

 僕はいつになく声を荒げていた。

「だが背景は!? 誰が糸を引いている……東京新撰組に蜂起の檄を飛ばした幹部は?」

 のんびりまったり答える斎藤だった。

「誰が利用しているか。それを考えるのですよ、お嬢さん。ここ数日の酒宴で、拙者の魔力もすっかり充填できました。また新たな手を打ちましょう……敵は多大とはいえ、我ら東京新撰組もまた、立派な大組織なのです」

「ハンネすら知らない草の根レベルの交流しかない志士たち。いまの時代の街を舞台としたゲリラ戦としたら、適しているけれど。弟なら得意な分野ね」

「志士。侍ですか、ならば一曲失礼します」

 ここで斎藤は歌いだした。

「でっちあげハムスター侍……

『ひとつ、ひとの恋路を邪魔し。

 ふたつ、不埒な不倫騒動。

 みっつ、醜い愛憎劇を……

 演じてくれよう、ハムスター』

 続いてハムちゃん数え唄……

『ひとつ、ひとこと多いのが~

 ふたつ、フラれる要素かな~

 みっつめられると照れますな~

 よっつや怪談真っ青の……ヘイヘイ~』……」

 二つともどこかで聴いたフレーズだが……僕の生前だろ。僕くらいのマニア趣味でないと知らないぞ。いちいち検索するひつようあるかな?

 とにかく提案した。

「いまはゴーストの力を久々に借りる。しばらく単独行で、心配していた。斎藤はタイガーシャークを使うのだよな。空を制するものは、現代戦においてなにより大きい」

「強いて言えば、情報を制するものが勝利の鍵なのですが。出遅れましたね」

「知っているよ。現実の歴史・経済・政治・国際・環境・資源・軍事……それらに馴染んでしまうと、無力さに打ちひしがれる。情報の角にはどんな魔物が潜むかを」

「マスコミを左翼呼ばわりするのはしょせんファシストかレイシストだろ。ネトウヨを作り出して国内の都合の悪い問題を海外へ逸らすだけ。近隣諸国叩きに洗脳する。弊害大きいな。かといって、都合の悪い情報は検閲し編集し直して上澄みだけ流すマスコミも腐敗甚だしいが。そいつらつるんでいるのかも」

「可能性は大いにあります。洗脳と変わりませんね、どこの国も国民だけ不幸です。ちなみに拙者には『公民権』があるはずなのですが、無視されます」

 なんのジョークだ? 公……ハム。ハムさん。僕は皮肉った。

「ハムサンとハンサムは字入れ替えだがまるで違うな」

「はい、拙者ほどのルックスはそうはいませんものね。どちらかというと美系より可愛い系ですと、良く言われます」

「認めるよ。たしかに人気あるだろうな、斎藤は」

「なんといっても、ネズミーランドなんかより、拙者の一族のテーマパークは圧倒的に世界に多く存在します」

「ん?」

 思わず呆けてしまったが、斎藤は自信満々だ。

「突っ込んでくださいよ、公園です」

「いや、自慢げに言われても、それは……」

「それに治安当局だって」

「公安か……きっと公証で公開公認公示されているのだろうな、解ったよ、それ以上言うな。公害になる。公職の公務員がしてはいけない」

 ひとしきり笑いあった。とにかくいつ世界が終わるか知れないのだ。いまはただ生きていることを噛み締めなくては。僕は新しいビール缶を開けていた。

 斎藤は、もうエーテルソードは通用しない、ハードよりソフト、との理由でATアプリの開発に力を注ぐと、夜更かし夜なべを始めていた。

 馴染みとなったが、これらは事態が絶望的になる前の、最後の幸せな非日常だった。