闊達な雑談となったが。仮にも趣味といえ執筆に関わる僕は、言葉の限界も知っていた。エッセイを綴る……

『……日本は地球では、極地極東に位置する単なる小さな島国で、しかも過去近隣諸国と戦争繰り返し、その前世紀世界最大にして最後の戦いで世界の裏側の大国に敗北したのに、なぜ戦後世界一まで復興したか?

 これは賛成した私見では、日本語に理由がある。ラテン系アルファベットのような定められた個数の文字だけでなく、日用語ですら軽く千、学術的にはそれを二ケタ以上も上回る漢字を使っているから。文字一つに固有の意味がある、『言霊』の言語。

 しかも漢字だけで成り立つ中国語とは違い、そこまで覚えずにマイルドにできる、女性文化のひらがながある。だから英語圏なんかではロングワードのスペルミス一つが致命的なのに、日本語はかなり融通がきく。学術向けなのだ。

 だが言葉だけって、虚しいのだ。少しディベート術を使えば事実なんて、簡単に揺らぐ。真実はいつも一つ、なんて虚構の世界だけだ。

 完全なロジック法則で成り立つはずの自然科学すら完全に証明できないのに、混沌とした生態系の人間社会が正しい統一された理解のもと全人類が一つに治まる、なんてカルト宗教の妄言に過ぎない。

 そんなの思い上がり甚だしい。だって、語彙を濫用すれば。

 たくましい、男らしい、決断力がある。これらは美徳だが。言い換えるとそいつは、傲慢なヤツ、自分のことしか考えない、協調性に欠けるとのことにもなる。

 ほかにも、女々しいとは優しいとの裏返しにもなるし、話が解るとは優柔不断だ。信念を持つは頑固であり、ユーモアがあるは馬鹿なヤツとなりかねない。

 言葉なんて使い用で、どうとでも取れるのだ。個性がしっかりしていて安心感がある、とは褒め言葉だが、枠をはみ出す意外性に欠ける、ともとれるし。

 すると普遍性があるとは反面独創性に欠ける、ということだな。去年一次審査通った自作短編への、出版社からの意図が掴めたよ。新人に独創性はいちばん大切な要素なのに。

 ある戦記もので、前線へ赴く主人公が恋人と別れるシーンで。

 『俺は生きて帰れないから一緒になれない』、とするところを、

 『必ず生きて戻るからいまはさよなら』、としたって言葉は正反対なのに行動は同じだ。

 後はどちらが良いかケースバイケースの『損得勘定』で決まる。この理屈の前には、自然科学の絶対的法則性なんてまったく意味を成さない。

 世の中は詭弁で成り立っているのだな……新撰組の旗記、『誠』とはどこへ……』

 斎藤が口を挟んだ。

「しょせんはすべて、相対正義の戦いですから。誰にだって自らを正当化する言い分はある。少なくとも、分別ある大人の世界では……ですが。子供に限れば、あからさまな悪事を働いて、自分の罪を自覚しないどころか、悪くないのに叱られたと逆恨みするものです」

「盗人にも三分の理、か。これはまさに天下り役員を皮肉って指す言葉ね。時給が数十万円なんてふざけた連中」

「スキルやスペックやクオリティより、経営営業販売戦略が良ければ質の悪い製品でも市場を乗っ取るのが欺瞞の資本主義経済。松下幸之助やビル・ゲイツは経営の神様です。技術の神様ではない。財政改革でどう変わるかが見ものですね」

「いまの日本経済はおそらくインフレになっても、給与は低いままの水準に陥り、ますます貧しくなる予感がする……」

「いまからこんな杞憂をしていても始まりません。理想を言えば、経済はすべて労働力で換算されるから、華々しい未来が待っている可能性だってあります。この混乱下に日本は多々偉大な文明文化技術革新を果たしましたし」

 ……ここで僕は返答を控えた。僕の理想は文化面の活動だけに限り、自由競争資本原理が働く、共産主義だった。すべてのブロガーにクリエイターが、無料に近い形で自由に創作し、場合によっては正当な代価を得る。虫の良い理想論だが。

 これは自衛官になるはずだった僕の弟、海神には向けられない話しだった。だからずっと抑えていたが。……とにかく打ち明ける。

「消費を節制しなければ人類は早晩滅ぶと思う。これをお偉いさんはご存知とすると。過去の経済危機燃料危機にオイルショックは過剰な拡大再生産資本主義消費経済を、歯止めするために起きた……のだと仮定するなら」

 僕のいささか暴言に、斎藤は真面目に答えていた……互いにビールを飲みながら、だが。まさか恵比寿麦酒飲めるとは贅沢な身分になったな。

「さもなければ人口は爆発、環境も汚染され、資源は枯渇し、文字通り世界は滅ぶ。エコで安全な動力の開発は進んだのです。だからいまは、ただ明日へ……それだけを信じて生きていきましょう。未来は不確かですが、必ず訪れるから」