全世界一面を、慟哭……悲痛な叫び、それが支配していた。空間に漂うのは腐臭でも死臭でもなく、漂白剤を撒いたかのような、むしろ奇妙な清涼感だった。それが意味するものは。
東京都会の一角の闇夜の下、車道路上に立って視線を交わす異色な男女五名がいた。
ブラウス纏う小柄で発育悪い体躯の少女は悲痛に叫ぶ。
「答えてよ、みんな! 生き残る人がいる可能性は? どうしてこんなことに……」
少女と同じくらいの歳と背丈の、線の細いデニム上下姿の少年は吐き捨てた。
「俺が知るか! まさかここまで事態が重くなるとはね。マクロ的にもミクロ的にも」
「私たちは志士でしょう? 世界が滅びようとしているのに……手を考えるのよ!」
「すべて終わったのさ。人間の力で対抗できるかよ! 火遊びの結末がこれだ。宇宙の焼失」
割って入り、巨漢のスーツ着こなす三十路紳士は冷静に一言した。
「いや、終わるのは私だけでいい」
「は、あんたの始めた火事だ、それがいいだろうな。地獄には特等席が待っているぜ」
紳士は姿勢を正し目を閉じてかぶりを振り、それから無言で会釈した。
ここでキッとし、断言する長身でモデルルックスの若い女性だった。
「終わりはしない、僕たちは諦めない! この宇宙が滅んでたまるか!」
少女は半泣きしながら同調した。
「そうよ、まだあの子が残っている。あんな子供を犠牲にできない」
最後の愛らしいフサフサモコモコズングリした年齢性別不詳の一人? も口出しした。
「拙者も同感です。いまこそこの地に生きるもの結束の時……すべての境を超えて」
このセリフに少年はまたも嘲ったが、口調は真剣になった。
「ケダモノと手を組んで、か。俺も愚かに生きて来たものだ、解るさ。つくづく同感するよ」
ここで五名は肯き合うと互いに近寄り、全員変わった片手袋をしている右手を掲げた。
……
……
……
思い直せば、どこから現実が壊れて来たのかは。
話は遡る。一年半ほど前……あのころ、世界は永遠と信じていた……