しかし僕の勝利への高揚感は一瞬で途絶えた。真っ暗に落ちたモノクルに、どっと憔悴に襲われる。次いで毒々しいレッドアラートテキストに耳障りな警告音……

 突然、反応が消えた。エーテルソードからの映像が送られてこないし、ATにもモニターされない。ATの分析によると、99%以上破壊、被撃破……敵の手で。

 まさかエーテルソードが通用しないなんて……エーテルソードは東京新撰組隊士、士分の証明といえる神器。敵企業も対抗策をすでに講じていたのか……不覚!

 事態に背筋痺れる中、狼狽する僕に、斎藤は進言した。

「この危機を逆に考えれば。私どもの他にエーテルソードを用いて戦い、敵に先手を打った志士がいることの証明となります。これほど鮮やかな封じ手を出した辺り、存分にエーテルソードを振るって大打撃を与えた志士がいたのです」

「でも……それが正しいとしたら、その志士はおそらく」

「はい、かなりの確率で消されているでしょう。しかし、希望は最後まで捨てないことです。戦況を吟味しましょう。いまは完全に主導権を握られていますが、私たちが軍事企業に勝るアドバンテージは、私どもの存在はまだ発覚していないことです」

「それは『おそらく』という仮定でしょう?」

「イニシアティブを失っても。アンブッシュなゲリラ作戦なら抵抗可能……小国の民間人にこれをされて、勝てた大国なんて史上まず存在しなかった。ましてやいまは情報化社会」

 僕は斎藤の見識に感心していた。ハムスターごときが、防衛大生だった弟もかくやの軍略……もっとも弟は、立場上寡黙だったのだが。

 ここで俄然創作意欲を増し、僕はテーブルに向き直り、エッセイ執筆を始めた……

『……いまの日本の平和は、大戦後のアメリカの占領地支配統治の過去にある。もし日本が勝っていたら、日本は世界の急進の中で孤立し、破滅していただろう。

 軍国主義からの脱却、自由思想、平等思想が日本を立て直し、世界に例の無い平和かつ経済大国にした。アメリカは軍事力を支配のために使ったが、同時に解放するために使った。

 それをいうなら韓国とかだって、満州時代日本の占領下にあったから近代化したと聴く。それまでは明治維新前の日本なんかよりはるかに文明・経済水準が劣っていた。

 結局は勝てば官軍、負ければ賊軍なのだ。大義など、この視点からはどうでもいいことだ。関係ない、歴史的にも人道的にも、まるで扱いに値しないのだ。

 核と原子力の話題が少し入るが。科学的、環境的な観点からと、経済・資源・政治・外交・軍事の観点からでは、福島原発の惨事が起こるまででは、過去の人は避けられなかったのだ。核爆弾も、原発も日本というのが皮肉過ぎる。

 過去の名作に目を通されて。日本だけで、ドラえもんもガンダムも鉄腕アトムも宇宙戦艦ヤマトも、みんな核動力だ。そしてそれらの前からすでに、核の事故で文明が滅んだ世界はSFでは当たり前に広く伝えられていた。

 実質的に右翼は日本にいない、なんてされているのに首相は靖国参拝するし。近隣諸国の戦争責任からの非難を浴びてもそれは曲げないのが日本政府。

 領土問題に関しては、歴史背景からはなんとも難しい。深く掘り返しても、どの国にだって言い分はあるだろう。

 単に経済問題と取るなら領海は多大な国益だから、どの国も狙う。それを無視し軽々しく、韓国や朝鮮、中国の人を馬鹿にするブロガーは許せない。

 いまの時代、先進国同士で戦争が起こったら、おそらく核戦争にはならない。情報面で優位に立ち先手を打って、航空戦力の奇襲で要所を制圧した方の勝ちだ。それから国際問題となって、戦争責任を問われてから仲裁が入るだろう。あくまで憶測だが。……』

 ここで斎藤が口を挟んだ。

「政府は対処しなかったのではないのです。むしろ責任を過多に取った。単に事件を解決するだけなら、現地の住民を全員撤去移住させてから、原発だけでなく放射能汚染地をすべてコンクリートで埋めてしまえば済みました。その方が、安く、早く、安全に」

「斎藤? きみ……」

「もちろん、ただ塞いだだけでは放射能の汚染区域はずっと封鎖されたまま。しかし方針はあくまで復興でした。危険を冒し莫大な費用と時間を掛けて、元通りの街を作り直す壮大な計画、とんでもない慈善措置と言えます」