いつまでも自分の感傷に浸ってはいられない。現実に対処せねば。この夜九時、二振りの『魔剣』エーテルソードを窓から屋外へ放った。僕と斎藤で一つずつの遠隔操作。

 闇の宙に消える剣を見送り、次いでAT追尾しながら僕は斎藤に疑問をぶつける。

「エーテルソードは空中に浮遊するのならば、動力にエネルギー……電力がそうとう要るのではないか?」

「いいえ。事実上慣性の法則に則り空を滑空するのですから、ほとんど電力を消費しません。むしろ、エーテルが光を集め原動力として使うので、昼間なら事実上充電を必要としません。拙者の魔力もありますし。もっともキメラどもは夜間に動くのが大半ですが」

 理科知識は苦手だが、いささかオーバーテクノロジーであることは解る。平和利用できないものか? これが狭く地震大国の日本で事実上頓挫したリニアモーターカーに変わって、空中に長距離超高速鉄道を……

 かつて昭和の時代、リニアモーターカーを中国やソ連に輸出しては、という中学生の意見は、無理解な政府により握りつぶされたとどこかの資料で読んだな。

 もしこの科学少年の夢が実現していれば、世界経済にも国際関係にも多大な貢献となっただろうに。まあ当時の冷戦と日本の学生運動の失態からすれば、時代背景上自然だが。

 と、呆けている間にモノクルには滑空するエーテルソードからの映像が流れている。もうすぐ、街の外だ。ものものしい鉄条網のバリケードに、自動小銃を装備した陸上自衛官たちが毅然と立っている。ほんとうにここは日本か?

 この『非常線』の内外へ向けて、暗視スコープで自衛官たちは夜闇の中を監視している。余計な街灯の明かりが、返って邪魔そうだな。

 割かれた戦力は交差点とかの詰め所に50m当たり五、六人として、3km平方二千名余、後は随時動ける戦力が数百名単位どこかに待機しているか。

 しかしATの策敵情報には、なにも反応が無い。キメラはいないのか?

 ここでさらりと吹くハムだった。

「この前の拙者の『魔法』で、この街の周辺はジャミングされましたから、レーダー反応はありません。反面その異常事態に対処する形で、陸自が慌てて動員されたのかと」

「斎藤! おまえの仕業か?」

「いいえ、ジャミングしなければキメラは貴女の竜ゴーストを狙いに殺到したはず。ならば責任は司魔さん、貴女となりますが?」

 ぐうの音も出ない。これが現実……

「お譲さん、お気をたしかに。貴女は立派ですよ……では、エーテルソードはこのまま山林地帯へ入りましょう。そこで遭遇したキメラを手当たり次第に狩るのです」

 僕はここで提案した。

「いや、森林地帯よりまず、目標は街の外れの軍事企業だ。根を断てば枝葉は枯れる。管理、開発、生産、流通、通信のすべてを押さえて潰す!」

「ほう、そこへ乗り込みますか……御英断です! 財務と経理と営業も押さえたいですね、やつらの取引相手を知るのに」

 斎藤は喝采を上げた。こうして二振りのエーテルソードは飛行し、さっそくその目的地にたどり着いた……!?

 一見人通り少ない街外れの、古びたオフィスビルと思えば、内部はなんという堅牢な作り……要塞だな。偵察する……頑丈なシャッターで出入口は閉ざされている。

 しかし上昇して調べると、キメラやドラゴンが舞い降りるのに適した中庭が。しかも地下に広がっているな……足跡発見、間違いない。

「ビンゴですね、お嬢さん。キメラ狩り始めますか?」

「まさか。キメラをすべていちいち相手にする必要はない。狙うのは敵ビルだ。支点となる一角を切断する! 軍事企業ビルは根元から崩れる。これで終りだ!」

 ……二つの刃が煌めき、夜空に妖しく踊った。この馬鹿げたお祭り、勝った!