僕は斎藤から仕上がったばかりのエーテルソードを貰っていた。これがビームサーベルか……刃を出していない柄だけの武器。なんて軽い! 100gもないのではないか? 刃も冷凍光線? で事実上重さが無いわけだし、これなら長時間振り回せる。

 もっともスペックを見るとそうはいかないらしい。バッテリーの関係で、光の刃を出していられるのは一分も無い。もっとも、常に刃を出す必要はなく、敵を斬る瞬間だけ使えば済むとか。神速を尊ぶ剣。受けとしても、大抵の攻撃を防げる。

 これで女剣士として立つ! と息巻いたが、斎藤はさらりと説明する。

「ATリンクによる空中浮遊の遠隔操作、と説明したはずです。これはアニメガンダムの、往年の兵器ファンネルのように扱えます。余計な労力に時間に燃料に人件コストを割かない、在宅勤務がこれからの仕事の在り方かと」

「だがこの武器が虚空に浮遊する動力は? レシプロでもジェット、ロケット、ホバーでもない。ましてや、反重力とかではないだろうし……」

「エーテルとは『空』の元素にして伝導媒体ですから、エーテルソードはエネルギー保存則に基づき、自然に空中に留まるのです。座標軸が地球の重力場として、自然ですよ」

 どっと混乱した。これは絶対に詐欺だろうな。いくら科学空想、SFでもここまでくるとパラノイアだ。きっとどこかに種と仕掛けが……魔法はともかく、手品なら当然だ。

「なにか言いたそうですね。メランコリー?」

「いいえ!」

「素直に言っていいのですよ。歌は素直に表現すれば、ダイレクトに伝えたいメッセージが届きます。しかし、そこには解釈が入る余地が無くなるのです。言葉では伝えられない感覚というのがあります。言葉に囚われているとその感覚に触れることはできない」

 返す言葉はなかった。斎藤は子供を諭すように続ける。

「違和感、日本語なのだが日本語と聞こえない違和感、人間なのだが人間に見えない違和感。同類と思えない違和感」

 って、繰り返すがこいつは人間では……違和感がそんな不思議か? 自然だろう。

「僕は迷信を信じないからね。十三日の金曜日が不吉だというのなら、なんで一日の日曜日は不吉ではないんだ?」

「気が付かないと気が付かない。なにしも感情は体験しないとわからない……それを教えてもらうのですよ。もっとも傷つくのは、信じていた人に裏切られた時。そして『無い事』を証明するのはとても難しい」

 それは難しいだろうな。ハムスターが……否、そもそもなんで人間がこの世界に、地球がこの宇宙に、宇宙がいつどこから……この無限の存在の意義など考えていたらみな発狂する。SFの巨匠アーサー・C・クラークですらそう言い切っている……

 って、飛躍しすぎだし、論点が狂っているな。僕は思いを馳せた。作家への道……まさに子供時代からの夢。夢って追い掛けるものだよな。捕まえてしまったら、夢から覚めて……すべては無意味になるとも聴く。

 万民が廉価に文化を享受できる。それも相互に繋がって、万民すべてが発信者として。僕の目指していた理想はそうなのだが。誰も儲からないけれど、精神面の拾足が得られる社会。その体制がどうであれなんの制限がある?

 自由民主原則が守られ、思想、表現、言論の自由が保障されていればなんの問題も無い。

 日本は国民の自由について実に寛大だ。他のたいていの国なら不満分子は迫害され弾圧され抹消される。法の名のもとに粛清されるのだ。

 皮肉にも、『自由の国』と謳う国家がたいていそうなのだから。日本は堕落腐敗している恥部こそあれ、まだ世界に誇れるユートピアだ。いくら没落してもまだ世界的に見れば断然モラルは高い。……そのはずが、なんだこの、キメラとやらのていたらくは!