いささか酒にも慣れて、二日酔いしなくなったな。連休明けて、朝。いざ図書館へ最後の週のお勤め……と思ったが。久し振りにニュース見るとなんとこの街には『戒厳令』が布かれていた。街をくるむように道路はバリケードが張られ、武装した自衛官がずらりと並ぶ。市民は日没後外を歩いたら逮捕だって!?

 こんなことがまさか現実現代の日本東京の一角に起こるなんて……キメラを警戒してのことか……貴重な数日、酒宴に潰してしまった!

 気付いていれば、騎竜ゴーストを擁し、万能の魔剣士斎藤ハムも仲間になっているから、僕はささやかでも魑魅魍魎どもの脅威に対する抵抗活動に貢献できたのに……

 これでは史実の新撰組の、甲陽鎮撫隊が酒宴で遅刻して板垣退助の新政府軍に甲府城乗っ取られ、近藤勇が捕縛処刑の憂き目に遭い破れたあのエピソードそのままではないか!

 ちなみに板垣は暗殺されかけて重傷を負った時、「板垣死すとも自由は死せず」と語ったとされるのは有名だが嘘で、ほんとうは「早く医者を呼んでくれ」と言った説がある。

 どちらが真実かなど、知りようもないな、過去は録音録画不可能な時代だし、現代は逆にCGが実写と区別できない。ま、森羅万象誠か嘘かは……個人の主観だ!

 ここは自分にできることをするだけ。悲痛な決意を固め、僕はゴーストを呼ぼうとした。

 しかし斎藤は穏やかな素振りで僕を引き留めた。

「安心を、お嬢さん。これは拙者の策の内です。空路はいま危険です。無駄死にしない手を打ちましょう。ですから雑談に徹し、執筆に集中してもらい、注意を逸らせたのです」

「斎藤……策とは?」

「いかに貴女が優秀で、竜騎兵として天空を駆る戦士だとしても。敵の企業をまとめて敵に回すのは酔狂というものです。この数日は、エーテルソードを貴女用に作成するのに使いました。なにぶん魔力を込めるのに、使い手の酒酔いの狂気の精霊『アギラ』が必要なので」

「それでこんなに酒に食材を用意してくれていたのか……」

「貴女は真面目だし勇敢です。いまどき社会への義務を果たす責任感が強い。みすみす敵のエサにされるのはいささか忍びないので……ああ、魔力使い過ぎで疲れました」

 このセリフに僕は恐縮したが、斎藤はビールを飲みながらうそぶいた。

「褒めることに上手になるより、褒められ上手になることですよ。子供の頃の思い出から、大人になって別れるまで。そうして生き、自分の苦労を見せないことで、苦労することが当たり前だと気付かせるのが理想です」

 ここで改めて気付かされた。精神的な拾足、を求めていまの日本社会はある。金回りこそ悪いが、文化面では非常に満たされているのだ。それを享受できるだけの時間と金の余裕のある人間にとっては。

 僕は貧乏だけれど、心を満たすものに飢えているから……ブログ運営をしていたのだな。さらにバイトに打ち込むことで昇華させてきた。いまは竜騎兵として。そう、竜。

「ゴーストは無事だろうか……」

 しかし、斎藤ハムはいつまでも温和だった。さらりという。

「身を危険にさらすことはありません。このエーテルソードは、魔法の剣。手で握る必要はないのです。空中浮遊しATから遠隔操作できます。秘儀、つるぎの舞いを披露しましょう」

 それはすごい……それよりこのアイテムの材料、どこで仕入れたのだ? 秋葉は過去電気街だったと聴くが……この羽織袴の人間サイズ、二足歩行ハムスター侍が徘徊しても平気な街なのか? なんて陋巷な。カオスだ……