「言うより先に何でもしてくれ、気を使ってくれる事が当然のお店。自分で何かをするのは面倒臭い、でも人にやってもらうと気に入らないところばかりが目に付いて文句を言ってしまうものです……」
……などと飲みながら滔々と話す斎藤は、いささか酔っているのに終始真面目だった。口は閉じておけ、目は開けておけというが、この万能ハムにとっての雄弁は銀だろう。
「……値切ると嫌な雰囲気になるものです。他人の我ままは許せないのに、自分の我ままは聴いてもらえるとでも思っているのか?
単純計算で、日本の年金世帯は? 生保世帯は? 学生世帯は? 人口の二、三割を軽く占めますよね。かれらに払う手当てから逆算すると、国会議員に官僚がいくら高給取りだからって、割合的には微々たるものです。
数千万単位点在する全国の被扶養世帯に対し、利権握るエリート権力者はものの一万名もいないのだから。仮にかれらが一般世帯の十倍給料を貰っているとしても、年金世帯すべての数百分の一ほどの金額。これでは増減したところで、微々たる額です。
過酷な受験競争に出世競争を勝ち抜き、国政運営に貢献した正当な見返りとしては、この程度の額妥当なのかもしれない。汚職していないなら。
歴史的には、平民の千倍万倍する所得をほしいままにしていたのが、中世の専制君主制の王侯貴族。それに比べたら、日本の皇室の予算なんて知れている。
日本ではよく悲劇のヒロインとして知られるマリー・アントワネットは、労働者の月給の十万倍もの巨額を、毎日賭博で散財していたという。……」
……僕はPCでエッセイの続きを綴った。社会問題を扱うには、いまの働く世代の若者はユル過ぎる。なにぶん知識を得る場が無いのだ。選挙が年寄り任せになって自然だな。
『……連日の激務に追われ暇が無く、ろくにテレビや新聞ネットなどのニューストピックに触れられない社会を知らないものは、平均な高卒レベルでも「左翼ってなに? あの『天皇陛下万歳!』ってやつ?」なんて問うくらいの認識しかないのに。
現に僕も中学になるまで、日本に皇室があるとは知らなかった。自由資本民主主義国家に、王はいらない、みたいに教えられていたし。万民平等の共産主義を、社会政治体制の理想と教えるものは多かったし。学校で『きみがよ』を歌う事は一度も無かったし。
それが成長してみると、左翼は共産党一党独裁の自由思想を弾圧する社会悪で、建て前に踊らされただけの無知な若者の集まる組織とされている始末だし。
共産圏は自由民主を名乗りながら、民主化運動が弾圧されていると報道されるし。少数派民族も迫害されているらしいし。ではどこが平等なものか!
共産主義と名乗っても実質は貧富の差も歴然とあるというし、全土万民が『平等な不幸』になるだけの社会、と端末では日本のネトウヨからよく叩かれる。
そもそも共産主義の某大国は、実質資本主義ではないか! 商売で敵う国家など、世界に存在しないぞ。労働者の解放を謳ったプロレタリア思想はどこへ……そもそもプロレタリア独裁と、ブルジョワ独裁の是非対比など学んでいないし。
所詮美談とされるフランス革命も、誰が実権を握るかの汚い権力闘争の粛清の繰り返しで、歴史の恥部となったものだし。共和政府が折れ君主制に戻っていた始末だ。
歴史からみると、某大国が共産主義となれたのは、日本の皇軍のおかげと聞くが……なのにかれらは反日教育を当たり前にし、その一方で皇軍のせいで内乱に負け、国外追放されて旗揚げした某国はむしろ親日だ。なんの皮肉だ?
政治体制の在り方など、こうなってはなんら意味がないのだな。歴史も思想も関係ない。すべては経済が駆逐する。そして経済は防衛……軍事力に換算される。
豊かであればすべては許されるのだ。図書館の資料で見付けて驚いたが、日本がバブル……GNP世界1位のころ、日本が全世界を征服して君臨しているという、傲慢な噴飯もののアニメが堂々あったのだ、これではいまバブルで有頂天な異国を責められるか……』
いささか乱文になったが、熱く斎藤と語り合いながら綴った。