ここで気持ち良く酔っぱらっている斎藤が、大河ドラマ?調で謡い始めた。
『……愛しき方はいまいずこへ。
この身は刃の錆びと消えても、
決して忘れはせぬゆるい思い。
誠の名にみな集いし前の日の、
あの光旗に託した果てぬ夢……
……いつまでも夢を追いかけて。
それならきっと輝ける。
希望、愛、絆……
この世界はそれで繋がっているから。
遠い空の下で時間を共有する神秘に触れて。
道のりはいくつもあるけれど……
ただ、乗り越えていかないと。
前向きにのみにしか進めないから。
でも、迷ったら後ろを振り返り……
むかし追っていた夢の足跡があるから……』
魔法かな? 何故か沁みる詩だ。目がしらが熱くなる。僕ってこんなに泣き虫だったかな……って、まさかハムスターと人生を語るなんて非日常。僕には少ない優しいリア友たちもドン引きするぞ。アニメの魔女っ子では、マスコットは定番ではあるが……
ここで持論を展開する斎藤だった。
「若者の音楽は、皮肉にも使い古された言葉ばかりが並び、新鮮さより未熟さばかりが目立ってしまうものです。ミュージシャンは問題提起するばかりで答えを出さないものですし。ましてや評論家は物事の一面だけを見て自分の回答の正当性を強調する……」
「それも愚かしいな。きみには才能があるのは良く解ったが」
「そうですか、今の時代これくらいあたりまえじゃないですか? 日本はすごいですがその万民がすごいわけではないし」
「実力に裏打ちされた自信だな……そこまで確固とした意志は僕にはないよ」
「……ここで拙者の言いたいのは、世代を超えてまでは理解されないメロディのない音楽。個性的なようでいて、かえって個性を消してしまうファッション。
5年で寿命を終える、便利な機能のついた不便な家電に、大作の過剰な宣伝広告の陰で、誰にも知られることさえなく消えてゆく名作の数々。
チャンネルを変えても同じニュース。迷惑なランキング。中傷することに慣らされた世界、テレビの登場人物までも中傷するものや、タレントに親しみを感じ過ぎるがゆえに、演技にしか見えなくなってしまったドラマ……」
「だから、各種メディア文化、ひいてはこの世界はそれを支える多くの者の上に成り立っているわけか」
僕はビール缶片手に、徒然なエッセイの続きに移った。
『……アパートではペットは飼えないのだよな……いまさらだが。無視する人が大半だが、売れ残りのペットは殺処分される。ペットを飼うのも残酷だ。ペットショップの店員はペット好きには務まらない。獣医師も、普通の医師も、動物好きには耐えられない。
それをいうなら医食同源、食事と薬はほんらい等価だ。過去の時代は『科学信仰』があり、化学薬品万能、漢方薬イカサマみたいなイメージがあったが、とんだ誤解だ。
化学薬品は主に石油から抽出した成分を、ほとんど無作為に、いってしまえばでたらめに片っ端から化学反応させ、それを実験用ラットに注入して、どんな効果があるのかを試す。全世界で毎年、何十億匹ものラットが残酷な被検体として犠牲となっている。
いまでこそPCの発展で、合成した薬物の効果が事前にある程度シミュレートでき、効率よく良薬が開発されているが。
ドイツが医学発達したのは、大戦時のホロコーストで、ユダヤ人を被検体に人体実験し、何十万人も犠牲にしたからだ。人間の死体の脂で、石鹸さえ作ったナチ。……』
ここではっとする。キメラの死骸で商売するのも、残酷なものだよな。いまのところ斎藤の『魔法』で、僕らの安全は保たれているらしいが。
いずれは立ち向かわなくては。元締めの軍事企業とやらに。死の商人どもに。