「なんだ、斎藤は詩人なのだな」

 冷やかす僕に、ハムはうそぶいた。

「若い頃は、破壊と再創造で世界を作りかえられると、漠然と信じていました。いえ拙者も、それがカッコイイと思っていましたから。逆に言えば、若者にしか書けない物語です」

 ここにいたんだ、僕の話を笑わずに聞いてくれる人が……。いや、斎藤は人ではないが。

 とにかく斎藤ハムスターは語る。

「でも、経験を積んで思うのは、破壊のいかに容易なことか、創造のいかに困難なことかということですね。貴女がいかに大切であるかということを教えてあげて下さい」

「以前バイトしていた店長のボンボンが……『月給十万円も貰えたらなんに使うよ』、ってほざいていた。そいつは働きもせず親の扶養でひと月三十万は軽く小遣い貰っていた」

「貴女は立派ですよ。拙者には人間の浮世は縁がありませんが、万能主義が本分です。この中傷することに慣らされた世界。楽しく生きるよりも一生懸命生きることが大切です」

「一生懸命生きている人をよそに、働きもせず小遣いを全額風俗に注ぎ込むなんて低俗なのがいて、個人の生活費で月給十万円なんてカツカツなことも理解しないの」

 しかし斎藤はあくまで温和だ。

「それでも、いい事をするときは誰にも見られないようにしてやりましょう。誰かが褒めてくれる代わりに神様が褒めてくださいますから。道徳を失ったため、人々は自分の利益だけを追求するようになり、結果として国全体としての収益は下がってしまったのです」

 僕は言い返せなかった。斎藤は続ける。

「将来何になりたいですか? どんな人になりたいですか? 有名になること……それはひとえに多くの非難を一身に受けることでもあります……貴女はそんなことをするために生まれてきたのか……?」

「わからないけれど、これだけは知っているよ。無駄なことをしていたら、自分のやりたい事に行きつく。人間の運勢は習慣で決まるのだから」

 斎藤は朗々と語り始めた。

「……いつの間にか先進国社会の生活の主題は、生きることから楽しむことに変わっていたようですね。生きることが生活の主題だった頃は、祭りは人々の心に癒しを与えるものだったのでしょうが、楽しむことが主題となった今、楽しむことが可能な人とそうでない人との間に格差が生まれたように思います。

 それに合わせて価値観も多様化し、人によって楽しいことが違いますし、自由に楽しめる人と、いろいろな理由で楽しむことができない人との格差の様なものも生じてきているのかな、と感じました。

 嘆かわしいのは、大きな会社に正社員として勤める事が目的となってしまっている。ものを作る人たちは人生の脇役だ。主役は世の中のものを奪う人たちだ。今の世の中はあるものを奪い合うばかり、誰も作る人がいなかったら今度は何を奪い合うのか? 訴えても自分は脇役でいたくないから、作る事をしない人が大半でしょうね……」

 ここまで言うと、斎藤は重い身体をりっく、と立ち上がった。キッチンへ向かう。

「夜の調理はお任せを。なんなりとお引き受けしますよ。ついでにATとエーテルソードも貴女の分、こしらえてさしあげますね。私どもは志士ですから」

 なんて万能にしてサイバーなハム……