悲壮な覚悟を決め、その日が休日なのを良い事に僕は斎藤と連れだって……よくケダモノが徘徊していてもみんな見過ごしてくれることに疑問を感じながら、離れた公園に入った。
で、昼日向から堂々騎竜ゴーストを呼ぶ。いまさらなんら、はばかることはない。もはや人目についても知ったことか! 笛を吹く。
ゴーストは数分ですぐに空から降りてくれていた。
「立派な獲物ですね、マイ・レディ。では仕留めます」
言うなりいきなりゴーストは斎藤の首に噛み付こうとする。
悲鳴を上げる斎藤ハムスター。
「ああ、人殺し~~ぃ!」
って、斎藤は人ぢゃないし。それに生き物の営みとしては、おそらく正しい光景であるが……せっかくの『戦力』をエサにされたらたまったものではない。とにかく止める。
「止めて! ゴースト。これは今日の食材じゃあないんだ」
「あ、保存食でしたか。失礼をすみません、マイ・レディ」
「違うって。これで仲間なのよ、東京新撰組志士の斎藤一」
「それがなんで人間大のハムスターなのです?」
斎藤はプンプンと文句を言う。
「でしたら貴方はなんでドラゴンなのです? すべては神の御心ですよ……」
……身も蓋も無い会話だな。僕は自分を馬鹿と自覚するが、馬鹿に生きるのは嫌なのに。
どれだけ頭悪くたって道を外れないものも多いし、どれだけ学歴があったって馬鹿をする人はいる。むしろ実力を兼ね備えての確信犯馬鹿こそ成功する。
『お笑い番組を笑うのはユーモアの解る人間、お笑い芸人を馬鹿にするのは馬鹿』、だ。
ともあれそんな斎藤は言い切っていた。
「孤高の魔戦士たる拙者に挑もうなど。いくらドラゴンといえ、我が『牙』に掛かれば一撃!」
このセリフに飛竜ゴーストは凄んだ。
「ほう……斎藤さん、貴方わたしの牙と勝負しますか?」
「拙者のエーテルソードなら、どんなものでも一刀両断です。これとチャンバラできるのは、同じエーテルソードのみ!」
斎藤、エーテルソードを持っているのか! 僕は高くて買えないのにこいつ生意気な……魔法も使えるし、万能ではないか! ハムスターごときが。ただものではないな。
斎藤は得意気だ。
「エーテルソードの前には炎は効きません。ドラゴンといえど、太刀打ちできませんね」
「マイ・レディ、こいつ明日の食材にするのはいかがです?」
ゴーストは問うが、僕はかぶりを振った。斎藤は言う。
「この特殊警棒は、エーテル内の光子、フォトンを時間と共に凍らせます。これの究極版が、タキオンソードです。光より速い虚数単位物質、タキオン粒子を凍結させる……」
まるきりファンタジーではないか! 中二病の夢だ。ケダモノに悪魔妖怪魑魅魍魎。混沌として狂っている。これが現実……しかし斎藤は朗々と言い放つ。
「この究極版が実用化すれば、タキオン粒子を噴射させて時間逆行させ、剣戟前に敵の骸が転がる光景が展開されます。ひとたび抜刀すればすべては片付くのです」
とにかくこいつらを利用して、僕は高みに上る! 誰にも邪魔はさせない! この僕が、世界を制する大空の至高の君主として……
いまこそ旗揚げなのだ。僕はこの欺瞞の地に、自ら君主として君臨する! そのために、なにが犠牲となろうがもはや知ったことか!