一夜明けた……シャワーを浴びると朝食の前に、自室のネット検索で昨夜位置が判明した軍事企業の実態を探る……某元財閥系の超大企業から派生した、ほんの孫請け会社か。
それでも資本金は数十億円、しかも利回りは桁違いに膨大だ。東証上場はしていないが、これの親会社の株価は極端にここ数年で跳ね上がっている。
保有する戦力としてのキメラは推定八百体……強大だが、かつて四万体以上いたのをこの僕がここまで潰したとすれば、これで僕は勇者なのだな。
値踏みする。キメラは安価に育成できる。戦闘機なんかと比べると。そして、ミサイルに追尾は困難だ。赤外線ホーミングはキメラが熱を帯びないから無効、電波誘導も困難だし、コスト的に割に合わないし。すると戦闘機で応戦するなら、機銃の出番だ。
いまどきのミサイルは、機体の前方以外にも撃てるのだよな。だから、敵の背後を狙って格闘戦する意味はほとんどない。単に射程に収めればそれで終わりだ。むしろミサイルに追尾不能な超高速で飛んで、敵機にミサイル撃ち込んでそのまま離脱すれば簡単だ。というかこれならパイロットすら不要。遠隔操作かAIでもできるだろう。
と、とんでもない記事が目に入った。
『マッハ2で飛ぶ戦闘機から後方にマッハ2で飛ぶミサイルを撃ったら、差し引き速度が0になって落ちる……』
どこの馬鹿のセリフだ! いくらぬるいゆとり世代の文系大出の僕だって、このくらいの理科知識解るぞ。
それはほっておいて、検索を続ける。東京新撰組に踏み込めるか……これは!
『……始まりは珍しい自然気象現象に思えた。時空の裂け目からの輝き……ここに異界への扉が開いた。さまざまなもの、特に魑魅魍魎が湧き出してくる。
これに気付いた一部の有志だけは独自の得物で対抗していたが、いささか手に余る相手、ここに全国に檄文が飛ばされ、『東京新撰組』が結成された……彼らの得物は。
フィフス・エレメント・ソード。またはエーテルソード。退魔効果ビームサーベルとなる特殊警棒である。これが一部の隊士の非公式な剣となった。決定的な威力を誇る。
アリストテレスの提唱した『五元素』。最高位の元素は空。低位から順に、地水火風、空。『空』とは天界の構成物質、エーテルを指していた。……』
『異界からの扉』?! 魑魅魍魎はそこから……すると、軍事企業はほんらいそいつらに対抗するためにキメラを作っていたのかな。
ならば魑魅魍魎打倒という共通の目的のために、協力し合え得る立場に……なると考えるほどぼくはポリアンナではなかった。
利権が絡むと人間は醜くなるからな……人間とは財産を万民に公平に分配できるような、高尚な生き物ではない。それは世界各地の共産圏が身を以って証明している。
ならばこの状況を利用する、というか逆手に取る手は……は、優等生だった弟の領分だな。僕には過分な仕事だ。しかし、こちらの存在はまだ漏れていない利点がある。