睡眠を夕刻にとって、深夜十一時に起きる。今夜も飛竜ゴーストでハントだ。
でも僕は物欲があまりない。高価な食材は、希少だから値が張るのであり、美味しさとは関係ないと思っている。衣服もファッションを追い求めたりしない。化粧品もメーカーとか値段にこだわらないし、そもそもあまり使わない。
ブランドものは、所詮名前だけと信じている。品質とは関係ないと言う、某有名元ラノベ女性作家の見解をほんとうと思う。いまどき大抵の品は百均で十分だ。
この現代日本は極端な格差社会というのに、貧乏人が見栄張ってブランドものを望んだりするのは馬鹿げている。
呼び笛を鳴らし、ゴーストを呼ぶ。直ちに乗り込んで砂塵吹き荒らし飛翔する。
この『力』……弱者救済のために使うのが本筋だよな。軍事企業は戦争をたくらんでいるとしても。自国内の飛行機生産に難点がある日本に、キメラにドラゴンとは大変な防衛力のアドバンテージとなる。
戦闘はイニシアティブ(先手、主導権)を取れば……勝ったも同然、特に空戦は。その点、ゴーストは快速だから超強力だ。
真っ暗な夜間、低空を地形に沿うように滑らかに飛行する。人目につかないように。
僕は周囲の警戒を怠らない。獲物となる動物や、あるいは高く売れるキメラ現れないかな。容易く狩れれば良いけれど。
……? キメラが前方に二騎ヤバいかな、相手にするには。退路を確認……!? 後方に僕を半包囲する構えで三騎もいる! いずれもかなり上空!
一対五か、まずい、囲まれた! ここは危険だが一点突破しかない! というよりそれがいちばん安全な策でもある。全速で突っ切って逃げる!
「ゴースト、全速前進! 高度はこのまま、低空を維持せよ。やむをえない、もはや高度の取りようがないからな」
ゴーストは最高速度で水平飛行した。350km/h。しかし敵さんのキメラはこぞって上空から、高度を速度に替えて降下してくる! 振り切らないと……
この一斉の動き、こいつら組んでいる、軍事企業の尖兵だ。逃げるだけでは終わらない。僕たちの存在が知られてしまった! ここは亡き弟の矜持に掛けて飛ぶ!
矢のように突っ込んでくる五匹のキメラを無作為蛇行と滑空でかわし、やや方向を変えて離脱する……危なかった。背筋に痺れるものが走る。気持ち悪い汗が流れた。
次いで、十分逃げ切ってから上昇し、夜空に浮かぶ断雲に並ぶ。眼下を確認し、そいつらの帰還方向を確かめる……いまは敵わない。しかし、いずれは潰す必要があるな……
思い出した。そいつらを逆手に取り利用しようとしていた志士が、竹田我流(たけだ がりゅう)。僕が阻止しようと戦った、でも理想高き男……
僕ごときが無事だったんだ、彼も助かったかも知れない。ならばいまならむしろ協力して共通の目的に立ち向かえるかも。
いささか虫が良いかな? 僕はゴーストに、ぎりぎり見える距離からの敵の追尾を命じ、なんとか大まかなアジト、軍事企業の拠点の位置を確認した。
次いで反転急降下滑空離脱に移る。相手はレーダーを持っている可能性が十分にあるから。民間人居住区上空で、おそらく無闇に襲っては来ないだろうが。
低空ならレーダーに映らない……ゴーストには地面を這うように飛行してもらった。