キメラとは死体でも素材としては、金になるのだな……。肉はゴーストに食わせるとしてキメラの角、牙、爪、皮革……これはたいしたものだ。軽く一撃で仕留めた敵なのに。

 販売先の検索はネットを活用した。特殊な商品も買い手はいるものだな。占めて二十万円以上で売りさばける運びとなった。いささか手間取ったが。

 これでもゴーストに言わせれば捨て値で買い叩かれている、とのことだし。コンビニとかの安時給のバイトと比較できない。

 竜騎兵は儲かるのだな……命張る代価としては安いかもしれないが。

 これは金になる。やや迷ったが、コンビニの方のバイトを辞めることにした。シフト的に夜勤になることもあるから。その点図書館ならほぼ昼時間だし。といっても、単なる穴埋め。いつ司書を解雇されるかわからない身だが。今月いっぱいは平気かな?

 そんなこんなで、今日も図書館司書。静かな館内で、穏やかに私語をせず行えるこの仕事は、僕の気質に合っている。時給は安くても、本に接していられるのは良い。

 あとはATさえあればな……各地のキメラ情報を検索できる……! それを持っている相手を思い出す。『東京新撰組・止魁戦』隊士、芽柏暦(めかし こよみ)さんと、武藤焔(むとう ほむら)くん。図書館で知り合った。そういえば、以後何故か会わないな。

 まだ子供だけれど、この二人の実力は図抜けている。無能な僕なんか足元に及ばないな。少年少女だからこそできる、柔軟な発想力、自由な意志に、活発な行動力。

 防衛大生だった弟、海神ですら舌を巻いた若い情報機器の使い手だ。もしATが健在なら、二人はいまも自分の戦いを続けられているはずだ。

 思わず気恥しくなる。軍事企業によるキメラ兵器化を阻止するための「あの」戦いの時、まるで遺書めいた私信を残してしまった僕としては。そう、『敵』は軍事企業だ。

 そして今夜も「稼ぎ」を期待して、ゴーストを呼ぶ。そして田舎の山へ飛び……

「マイ・レディ叶、貴女は空戦を心得ていますね。飛行戦術をどこで身に付けられました? シミュレーターですか?」

「読書だよ、戦史に戦記。空中戦なら、第一次大戦のレッドバロンから第二次の坂井三郎、現代の航空戦も読破した。弟の影響が大きいし」

「記憶が戻られないなら、『初陣』にして見事な戦果です。まさか実技を知らず知識のみで戦われたとは、才能は伸びるでしょうし」

「僕は穏便にすませたいだけだよ……あ、鹿の群れがいるんだね」

 しかし安穏と構えているわけにはいかないことを、僕は知っていた。バイオモンスター、キメラにドラゴンに魑魅魍魎を生みだした軍事企業……これがまだ存在しているはずだし、なによりその実態の情報は漏れていないのだ!

 派手な花火が上がるかな……この東京を舞台に。平和だけが取り柄のはずの、この日本に。あってはならない戦禍の火種。

 こんな火災は、起こす前に鎮めなければ。東京新撰組志士として、僕が押さえる! 他の誰でもない、この僕が! と、ゴーストは火炎の吐息を発していたが。

 ゴーストは満足そうに、今夜仕留めたばかりの鹿の炙り肉……自らの炎の吐息でローストしたそれを咀嚼していた。