僕は日常に戻っていた。こんどはコンビニのバイトだ。レジに商品陳列等、淡々とこなす。こうして当たり前に過ごしていると、ゴーストのことは夢に思えてくる。
しかしゴーストはこの街の人気のない廃ビルの屋上でいつも待っている約束だし、僕にはそれを半径数十km内から呼べる特製の笛がある。
ちなみに、亡き弟の線はもう頼れなかった。すでにアパートは他人名義となっていたし。かつての『事件』の首謀者として命を落とした弟は、ろくな葬儀も出せなかった。
以来僕は孤独な身……率直交際している彼氏とは、恋愛感情無く肉体関係だけで繋がっているような気さえする。しかし、孤独には耐えられない……
弟の線では端末機器ATも手に入らなかったし。今後どうなるかな……
って、警察から通告が来ていた。ゴーストに乗って飛んだときのスマホがいけなかったか……いまどき個人情報はすべて治安当局が一括して保守しているのだな。道路も線路もない航路を、少しだけ時速300kmほどで移動したのだから、疑問挟まれて当然か。
容疑はスマホの二重登録と聞いてほっとした。つまり同一識別コードの端末が複数あると。それは誤解だから、叩いても埃は出ない。悪い事しているわけではないし。徹底的に調べてもらおう、犯罪の証拠なんてないのだから見付かるはずない。
サイバーテロ横行する中、わざわざ事件が起こる前に警察が動くとは。大事だな。
スマホを警察に預けた。あっさりその日の内数時間で返却され、無罪放免。GPS機能の誤作動とかにでも、認識してもらえたかな?
そうしてその夜アパートへ戻り、さっそく熱いシャワーをくぐる。家賃、税金、光熱費、通信費、食費その他生活費から交通費が軽減されてもなかなかお金にならないな……
では時間外労働だ! 僕は外へ出、空地へ行き『呼び笛』を吹いた。数分待つと、そこへゴーストが舞い降りた。
僕は無言でその背に乗り、シートベルトでしっかり身体を固定する。そのままゴーストは空へ舞い上がった。
「どこへ行きます? マイ・レディ」
この問いに、答えお願いする。
「きみの狩りに便乗させてほしいの。食費浮かしたいから」
ゴーストはクスクス笑った。
「では野生の鹿肉とか食されますかね。わたしなら熊でも仕留められます。肉をさばかれたご経験は?」
答えようとした時、斜め前方、数kmの位置に夜の空に飛ぶ影を見つけた。値踏みする。鳥では無い巨大な異形の怪物。こちらへゆっくり向かっているな……
「ゴースト、お客だ……ドラゴンではないな、キメラか。魑魅魍魎よりはマシだ」
「こんな雑魚等と、いちいちまともに戦う理由はありません。それでも仕留めれば周囲への脅威は消えますし、肉も食える」
「あ……僕は遠慮したい。モンスターを食べるなんて、ゲームであるまいし。でもここは、民間人居住区上空。見逃すのも忍びない」
「では交戦といきますか。マイ・レディ、竜騎兵としての戦いを思い出されました?」
「いや、記憶ないが。機動戦術を執る」僕は指示していた。「きみの速度の利点を生かし、敵と正面からすれ違った後、反転して背後を押さえる。一方的に攻撃を仕掛けるんだ」
「了解! 志高いマイ・レディ」
ゴーストはキメラに突っ込んで行った。何回も体験があるようなデジャヴがした。