誰かが言った言葉がある。創作とは自らとの戦いであり和解。上を目指すのが戦い。自分を表情するのは和解。文化が心を作り、心が文化を作る。これが世界……
私と焔で相談し、同じ結論に至る。
『……いまの技術なら、炸薬式の銃を作るより、光線銃を作った方が簡単で安上がりな上、効果的で実用的。殺傷力こそ弱くても、建物や衣服に遠距離放火できるし。なにより光速、狙えばもう命中しているのと同じこと、絶対に狙いを外さない。低出力なら兵器の装甲を破れなくても、剥き出しの通信機器なら容易に破壊できるし。その程度の精密照準軽い。
ATのモノクルには目を守るように、その低出力パルスレーザーを遮る、偏光フィルターが掛かっている。ATハード開発者海神特製の。
だから戦力としては、私たち東京新撰組、止魁戦は強力だ。これは銃刀法違反かな。目を失明させる以上のレーザーは、国連条約で禁止されているのだし。
というか……レーザー光線は大型化すれば、人を殺傷するくらいの出力にすることは容易なのに。あの海神はあえてそれをしなかった。
世界に表向きレーザー兵器は出回っていない。実用化可能なはずなのに妙だな。世界各国、牽制し合っているか。それを用いれば、軍事衛星だって地上から狙撃、一撃で破壊できる。そうすれば、自然空の下の戦いも変わってくる。時代が逆行する可能性も。
まさにそんな未来を描いた『ガンダム』や『銀河英雄伝説』とはよくできたSF戦記ではあるが、理由があれば戦争が認められるとの刷り込みをしているきらいがあるな。
ステルス機はレーダーでは至近距離まで発見不可能だが、音波なら聞き取れる。
超音速飛行を仮にしたとしたら、音波はむろんステルス機が通り過ぎた後でしか解らないが、衝撃波、ソニックブームの音は公害とされるほどのひどい騒音だ。
潜伏した潜水艦なら、音波を捕らえることも可能だ。半径数百キロ、ソナーがカバーする。それに、軍事偵察衛星からなら、地上の軍隊の動きは筒抜けだ。
そもそもこの時代、戦争に対し戦闘機や戦車などのハードに頼るのがナンセンスだ。国を陥落させるなら、もっと手早く要所にバイオテロないしサイバーテロでも起こせば良い。
それなら価格が天文学的並みに安く済む。ハードに頼っての戦争なら、下手すると一京円くらい軽く費用掛かるかもしれないが、バイオテロ、サイバーテロなら安ければ数十万円だ。実行する者の労働費を度外視すれば……』
これらを話し合ってから、得意気に語る焔だった。
「俺が自衛官志望した理由解ったろ?」
私は警句から言い返してやった。
「愚者にお金はすぐに離れるというが、焔とお金となら話は別だ。愚者がくっつくから」
「手厳しいね、暦は」
「優秀の影に傲慢あり。真実は変化するのが政治公約というもの。そして政府は税収を使いきるために肥大化する。成功の秘訣は誠実さ。それを装えば成功したも同然、気を付けてね」
待てば回路の費用増し、か。高度に発達した科学技術は、魔術と区別できない。SF巨匠が言い切っている。水たまりの深さは浸かってみるまで解らない。底なし沼かも。
私は警句から引用した。
「プログラマがプログラミングするように都市を建築すれば、キツツキ一羽で文明は滅ぶ、というわ」
焔はやれやれ、と頭を振った。
「どこの資料だ……80年代、下手すると70年代か、それは時代錯誤だ。それは前時代のスパゲティプログラムの話だ。機械語アセンブラとか、あるいは少し変数を注意怠るだけでメモリ壊しまくる初期のC言語だな。90年代以降のオブジェクト指向実用化以来はそんな危険は劇的に減った」
「C#は挫折したわ。Pascal憶えようと思っている。お嬢様言語で知られる」
「Cは実用一点張りだからな。関数名とか演算子とか予約語とかがマニアック。芸術的職人技としか呼びようの無い、パラノイア言語だ。過去、BASICは良く馬鹿言語と叩かれたらしいが、インタプリタがスクリプトとして生まれ変わって久しい昨今VBは定番で、C#こそ奇天烈な変人言語だ。Pascalは入門言語に最適だよ。文法がしっかりしているし、ユーザー定義型が作れるので柔軟性高い。マイクロソフトに構わなければ、だけど」
マイクロ……はっと思い至る。AT検索……
ドイツの科学者ハイゼンベルクは三十一歳で、ノーベル物理学賞を受賞した。超大マクロなアインシュタイン相対性理論に真っ向から意見した、極小マイクロな不確定性原理で。
しかも彼のすごいところは対立する理論というのに、相対性理論を受け入れそれに準じて量子力学を説いたところにある。しかも粛清される危険を犯してドイツに居続けた。
その項目でふと、量子計算機の記載を見つける。これは理論的には実現すればおそらく、現代の情報科社会を一転する。
すべてのコンピュータの暗号は無力化され情報が漏洩し、全世界のセキュリティが破られる事態になりかねない。
そうしたら資本主義経済は破壊され、銀行、警察、軍隊、そもそも国家なんかも存在が危うくなる。まして、個人の権利なんて……社会は崩壊しなくても、異質化するだろう。
警句に曰く、景気が良くなると、他のものはすべて悪くなるというし。栄光はつかの間、無名は永遠だな。成功して当然、失敗したら怨む、なんて気構えではいけない。
量子力学で言う三値論理……在る、無い、どちらともいえない、観測していないから計測できないは理解が困難だな。解釈が別れるところだ。
宇宙そのものが確固として存在するかどうかの話になるから。まだやはり特殊相対性理論の方が解りやすい。
正直この量子力学は曲解されていると思う。例えば有名なシュレディンガーの猫理論は、単なる寓話だ。
現実には不確定性原理は、観察物が原子単位未満のマイクロな世界でしかほとんど反映されないのだ。さもなければ、この世界は御都合主義の超能力まかり通っている。
それでもどこか超能力を否定しきれないのが、私が子供な理由なのだろうか。
私見では、プランク定数を割り込むくらいのミクロの世界なら、人間の、生き物の意志に感応して物質は動いてくれる。つまり念動力とか、千里眼とか、極端な話ご都合主義RPGの黒白魔法とかが、現実のものとなる……は。
中学の歴史教師は言っていた。宗教を信じる者は、年齢と比例して増加する。逆に超能力を信じるものは、年齢に反比例すると。宗教も超能力も同じベクトルのものかな。
それに戦場には無神論者はいないともいうし。宇宙船パイロットは多くが信仰に目覚めるとも聴く。御都合主義なのはどちらも共通か。
そして、そんな人の心の弱さに付け込む金儲け目的の悪質カルト宗教は蔓延する。信者とは儲かると書く、言葉通りだ。
? ここでATに別AT三件の情報が入った。一つは司魔のものだが、他の二つは未確認だ。しかもなぜそのAT所有の三者が数十メートルの至近距離に……
海神お手製の機器だから、彼の知人である可能性が高い。
とにかく司魔の現在位置を知って愕然とする。一気に全身から血の気が引いた。
司魔があのクーデター首謀者竹田の邸宅へ単身直談判に乗り込むだなんて……