私はいつものように、自宅の自室のベッドに寝転がり、AT装備をしたまま思案に暮れていた。一人で悩むと、悪い方へと想像が進みがちだな。いまこの瞬間にも、醜悪なキメラが恐ろしいドラゴンが、家に忍び寄って来ている気がしてならない。妄想を振り払う。

 いまの真実の危機は、キメラなんかではないのだ。クーデターそのものでもない。それを引き起こした元凶、つまりいまの人間社会環境下にある!

 経済的資源的にも困難、故に国際関係も悪化、科学技術こそ進んでいるものの、自然破壊……。まずは教育だ。

 貧乏なものは、立身出世のために勉学に励むから優秀な学歴エリートになる……よくあるステレオタイプ美談だが。むしろ金があるから勉学に集中でき、金持ちが悠々学歴エリートになる逆のステレオタイプだって知られているしそれが当然なのだ。

 金が無いから荒んだ環境に育ち、生活苦で素行乱れ、犯罪者になる例も多々あるだろう。金持ちの放蕩息子はろくに勉強しないとはいうが。個々の家庭のモラルも影響するはず。

 タダで勉強させてくれる学校は無い。環境によるところが大きいだろう。医者の子供は多くが医者になるが、年収平均並みの家庭で医大など、とても進学できない。東大生の過半は、いまどき親の年収一千万を超えるブルジョアだという。

 知能テストのIQ知能指数だって、しょせんはアンケート的な統計結果だ。幼いころからそうしたパズル・ロジックに馴染んだものが良い点数を出すのが当たり前。そんなもので、頭の良し悪しを決めるなどと、とんだファシズムだ。

 知っている青年に、親戚に東大早大卒とか多いのに、偏差値50くらいの普通科高校を出、三流大学なんて行かない方がマシといまどき高卒から工場パート勤務している工員がいる。無理解な人から軽んじられるし、たしかに学業成績こそ並みだけど。

 それでも学校も職場も無遅刻無欠勤だし、技術も身につけたからなまじ半端な大学を出た後正社員になれず、フリーターになった同じ職場のものよりはしっかり稼いでいる。かれで偏差値50、統計的には平均なのだから、世の中上を見ても下を見てもきりがない。

 逆に親が銀行員のエリート家庭で余裕あるから、県立高に落ちても施設整った私立高校で学び、そこが付属校となる私大にエスカレーター進学したのもいる。

 その付属校の学生レベルでは、一般受験ではまず受からない大学なのに、現役な事にのぼせあがり、大学受験の厳しさも知らず浪人した一般受験組同期生を馬鹿にしていたとか。

 それで卒業後は有名校の名前を生かし就職し、東証上場企業の子会社に当たる中堅の企業一般職に正社員務めして、余裕でホワイトカラーしているのだから。

 世渡りの上手いヤツは、実力なんかなくたって泳いでいける筋書きだ。いまでこそ職場は実力が学歴より重視される体制に少しは変わってきているが。

 同じ実力なら評価されるのは学歴のあるほうだし、事実は一度でもドロップアウトしたら、もうもとのまともな道に戻れない仕組みが旧態依然と続いている。

 私は……仮に高校中退のままだったら、就職できるだろうか。その思いが鬱々と頭上から重く圧し掛かっていた。しかし……焔の例がある。すでに半ば準一流のエンジニアに並んだあいつ。会社での実務経験こそないにせよ、すでに私たち……海神が作ったハードATに、主に焔がコードしたソフトは一線級だ。私は語学レベルからその有効性を導き出す。

 それらだって民間市場に流通させれば、経済を成長させる大いなるアドバンテージとなるだろう。いま打てる手は……

 急いで再生可能エネルギー改革を実行しなくては。予算こそ絶望的に膨大にかかるが、それも完成すればなんとか三十年ほどでペイバックする。しかも国内に限ってで。輸出産業としてこれらを外国に普及させれば、天文学的に日本に収益となる計算となる。

 むろん、獲らぬタヌキの皮算行だが。実際はこの理想化コミュニティは日本の都市部の様な箱庭文化でないと実現不可能だ。シンプルイズベストが叫ばれて久しい昨今。

 経済は算数では語れない。公式となる数学すらない。単純に節約すれば良いというものではない。一面的な意見で一見無駄な予算を削っても、その削った分の予算がほんとうに必要で大切なところへ回されるかは別問題だ。

 年度末にはどこの省庁も予算消化の散財をするし。道路を掘っては埋めするのなら、なぜ灌漑土木は滞るのか。文化面を満たさなければ経済の成長も無いが、バブルのころのような消費経済は間違っている。故に速やかに再生可能エネルギーの普及を進めなければ。インフラ整備するのだ、失血死する前に。大麻草にキメラ……経済政策に有効に使えないか?

 前世紀は歪んだ未来像、SF観念を人は持っていたという。二十一世紀は宇宙進出の時代、増えすぎた人口を宇宙コロニーに移民……そんな科学技術力に開発力に経済力があるなら、砂漠を緑化した方がはるかに現実的なのに。コスト労力とも千分の一未満で可能だ。

 もう手遅れなのかな。赤字国債であれ、経済がなんとか回転している内に手を打たなくては。借金で身動きとれなくなってからでは遅い。人間の世界は滅ぶしかないのか……

 いまの時代は文明の進歩、文化の発展の人類の絶頂期、しかも加速して……まさに頂点が見え、それをつかみ掛かっているというのに……ここまでなのか。