竹田我流については、典型的なエリートだと解る。自らの才能を、惜しまず野心のために注ぎ込んだ男。巨漢で屈強、頭脳明晰で確固とした意志。極めて危険だ。

 弱者に対する共感など有り得ず、自分の意見を力ずくで押し通す独善家……。彼に憐憫の情などあろうはずもない。

 これではいくら有能だからといって、人の上に立っては不健全だろう。

 一流の国立大学院をストレートで首席卒業、その学閥からの出資で起業し、ものの三十代で東証上場を果たす。資金力も絶大だし、政府官僚にも顔が利く、か。

 まさに絵に描いたようなサクセスストーリーの人生だ。しかし、ips細胞……人工器官開発の企業とは。

 彼はすでに自らのキメラ数千匹の部隊を従え、一大戦力の脅威となっている。協力者も次々現れているな。こんな奴に屈せるものか!

 幸い、いまのところ私たちは単なる傍観者だ。なにもアクションは起こしていない。まだ公に、情報は流れていない。筒抜けだったいつかとは違うな。

 竹田とは要するに傲慢な、人間として性質が最悪の人物だ。それとも困難な学歴競争を突破した、エリート官僚たちはみんなこうなのだろうか……それを思うと気が滅入るが。

 世の中に天才はいくらでもいる。単純計算で地上人口数十億、十万人に一人の才能でも、一万人を軽く超えるから当然だ。千人に一人の才能でも、東大クラス程度は大勢いるわけだ。

 偏差値70ではものの上位2,3%だから、そんなもの比較にならない。

 まして、上位5%にも及ばない偏差値65にも満たないものが自分の能力を吹聴しまくるのはドングリの背比べ、滑稽で見苦しい目くそ鼻くそを笑うというものだな。

 ある資格講座のCMを思い返す。

 …… 

OL「二級受けるの?」

テキストを読む男性社員「いや、一級」

OL「いきなり一級は難しいと思うよ?」

広告を見せる男性社員「準一級はこれで去年取った」

OL「あ、そうなんだ。きみ頭良いんだね」

男性社員「資格を取るなら、これさ」

 …… 

 こんな会話すること自体馬鹿だろう。成功者は頭良く、敗者は頭悪いとみなす。

 こんな言葉遊びの繰り返しだけで、自分が頭良くて、偏差値成績学歴無資格なものは頭悪いとみなす考えこそ偏狭で馬鹿なのだ。単にテストの点数だけが高いものが頭良いか?

 どれだけ学歴が高くたって、馬鹿はいる。軽々しく弱者を軽蔑し迫害し、その一方で自分は汚職に手を染め私腹を肥やし、それを特権視して犯罪意識すらないものが。

 結果を残せる人だけが頭良いのなら、自らの意志も問われず徴兵され、戦うべき理由も殺す罪も死ぬ苦しみも無視された無力な兵士たちはみな敗者で馬鹿だとでもいうのか。

 遅くとも19世紀以来の近代史実はどの戦争だって、エリート将官さまは決して前線へは出ず、安全な後方で酒盃片手に行方を見物しているだけというのに。

 私は政治に参加できない未成年だが。増税がほんとうに医療や介護や社会福祉費に充ててくれるなら大賛成なのだが、それが現実としたら、なぜいま街に浮浪者がいるのか。

 働けない人を保護し福祉受けさせるべきだ。ただでさえ年金受給費は下がったのだから、下がった分が浮いた額だけでも、ほんとうに困っている人に回せないものか。

 ふと思い出す。焔は精神疾患があったはず……ならば、自衛官には任官できないはずではないか? いくら予備役補とはいえ……

 慌ててATを検索し、事実に行き当たる。専門の精神科ではない、普通の小さな町医者で健康診断書を作成してもらうなら、特に自ら名乗り出ない限り、なんと精神科の病歴を伏せて貰えるのだ。専門医の精密検査でなければ精神疾患なんて見抜けないからな。

 ここで一息、安心した。焔、確信犯だ。公務員なら別に保険手当ても付くし。

 モニターすれば、竹田はとにかく聴くに堪えないアジ演説をしている。

「……故に東京新撰組志士たる我らは水火を辞せず戦う覚悟が必要である。勇気を持って、あえて虎口を逃れて竜穴に入るのだ! 鷹は飢えても穂を摘まず、その心意気こそ諸君に求められるのだ! 立てよ勇敢なる友よ! 至高にして偉大なるこの義の前に!」

 馬鹿じゃない? くだらない! 死ぬ覚悟があればどんな非道もして良いというのか。泥棒にも三分の道理というが。水素と愚かは普遍的というものだな。

 どれほどの知性にせよ、愚かさとは無縁でいられないか。まさに人間はこの世で唯一不完全なものということだ。人酒を飲む、酒酒を飲む、酒人を飲むという、そのものだ。竹田は自分に酔っているだけだな。扇動者が。

 放置しようかな、今回は。わざわざ民間人の未成年一学生が割って入る大義が欠けているのだ……でも、焔は戦うだろう。ならば私も。どこまでも行くよ、一緒に。