戦闘開始からものの二十分後。勝敗は決していた。この時間トラックを全力疾走で駆け抜けたランナーのように、校内の生徒教師職員たちみんな疲弊していたが、なんとかキメラを退けることに成功していた。残ったキメラは散って行く……

 犠牲も多々出た。前線で雄々しく白兵戦し、裂傷打撲傷などを負い、後衛の者たちに後送される生徒たち。だが敵キメラはもはやいない……逃げたか。野放しにするのも危険だが、それは一介の中学生の挟む問題でもないだろう。

 勝利に湧きかえる生徒たち! この興奮と感動は、クラスメートの友人がオリンピックで優勝したかを上回るだろう。何故って狂気の困難に挑み戦い勝ったのは、他ならない自己に生きる価値すら見出せないで、鬱屈していた非力な自分各々なのだから!

 しかし高倉は陰鬱に語っていた。

「勝ったことは確かだが。終わってはいない」

「そうだな、負傷者の処置を急がないと。外部とはまだ連絡がつかないのか?」

 俺は安易に答えたが、高倉は底なしに暗く語った。

「まだ敵が残っていると言っているんだ」

「敵? 無視できないな。で、そいつはどこに」

 高倉は右手で俺を指していた……俺?!

「ショゴスは原型が一体化して強化される。おまえのシュガーの身体を、おれのソルティが所望している」

「高倉!? おまえ……」

「悪く思うなよ。いや、悪く思ってもいささかおれは気にしないが。おまえのような大志ないチビには解るまいな。至高を目指し力、強さを求めるものを……この力があればなんでもできる! もっともっと強くなって、おれは自分が行く道を突き進む!」

 こいつ、俺をエサにして、より力を手に入れようとしているのか!? なぜそうまでして力を求める? シュガーも力の意味を模索していたな……

 同士遭い撃つなんて狂っている! これが内部対立に明け暮れた史実の新撰組以来の掟か、運命か……まさか高倉のソルティに俺のシュガーとの共食いかよ!

 いささか疲弊していたが、ここはやむを得ないか。俺は臨戦態勢を再び取る。相手は同じショゴスで強化された超人。キメラ雑魚とは比較にならない! ここは攻める!

 パンチを弾かれ、手首を捻り投げられてしまった。高倉……こいつ、やる! 油断さえしなければ、格闘家としても有能か。このままではシュガーと俺は喰い尽される!

(マイ・マスター、焔)シュガーは優しく語りかけてきた。(わたしはもはやかまいません。貴方だけでも生きることです。わたしからはなれて……)

「だめだ! 俺は相棒を見捨てはしない! それにおまえは人を食い殺したと同時に、多くを救ったんだぞ。人間でなくても……確固とした心を持っているのに! まだ出逢って数日とはいえ、失うわけにはいかない!」

 言葉はもはや無意味か。ソルティに組まれ、『浸食』が始まった。全身にドライアイスが押し付けられたような激痛が走る。俺の欠点のスタミナが危うい。

 闘うしかないのか。しかし、この体勢では決定的に体格差で不利。間合いをなんとかとってボクシングに……回避技を駆使するには、消耗が激しすぎるが。

 最後の気合で撥ね退ける。自由になった両腕で、左右ラッシュを叩きこむ! しかし、すぐにまた組まれてしまった。これは……ヤバい!

 血が吸われるのが解った。寒くなっていく。 ソルティに食いつくされ、乗っ取られる! ここまでか……誰が言ったのだっけ、戦士は不器用にしか生きられないと。十字架を負わなければ栄冠は得られないとも聴く……シュガーも攻勢に出ているが、このままでは!

 声がしたような気がした……(サヨナラ、ワタシノマスター…)