俺は地上へ舞い降りようと、目標を定めていた……その眼の節から、不意に黒い影が宙を横切った。まさか空を飛ぶキメラか?
違った。その影はキメラに飛び掛かり、一撃で仕留めていた。クラスでいちばん背の高い、高倉驀進(たかくら ばくしん)。昨日の柔道で俺が投げて病院送りにした当人だ。そうか、こいつもつまりショゴスを……
シュガーは女の子の声で、嬉しそうに言う。
(かれにはショゴス、ソルティが憑依しています。ソルティはわたしシュガーの同類、家族同然の存在です……まさか、助かっていたなんて)
片手で俺と30cmは背が違う高倉とハイタッチしながら、もう片手で慰謝料請求用紙を突き渡される曲芸を期待していたわけではないから、嬉しい誤算である。
意識していなかったが、こいつ優等生なんだよな……典型的な。生徒会役員に立候補し、その人望の無さから落選した権力志向、自己顕示欲の強い男だ。成績優秀、スポーツ万能。ルックスも凛々しいのだが、このゆるい時代にこうした熱い男はむしろ女に嫌われる。
だから俺はなまじ俗物とみなし、軽蔑していたのだが。同じように彼も俺を軽蔑していたから、お相子で文句は言えない。
とにかく声を掛ける。
「高倉! 怪我は治ったのか?」
「アバラはコルセットで固定している。ただのヒビだ、動けないことはない。相棒ができたいまの俺にはな! って、まさか武藤おまえもか?」
驚愕の声が、校舎から響いていた。どうやら攻撃が一部のキメラの逆鱗に触れたらしいな。とんでもない突進力で、校舎に体当たりをする数体のキメラ。その衝撃が、ズン! と響く。剥離した壁の欠片がばらばらと降って落ちる。
俺と高倉はコンビネーションプレイを始めていた。とても常識では考えられない跳躍力と速さで飛びまわり、次々とキメラの急所を突く。上手くいけば一撃、さもなくとも次の一撃で塵と化すキメラ。その口から発する致命的な炎や酸、毒の攻撃もことごとくかわした。
この活躍に反応する、女子生徒たちからの喝采が快感である。シュガーがいれば、存分に戦える! しかし混戦になってきた。
このころにはキメラの群れはほとんどみんな、校舎にへばりついていて、白兵戦武装した生徒と小競り合いが各所で起こっている。
長い得物を手にしたものは、キメラを寄せ付けないよう間合を保とうとしている。狭さを利用し、短めの得物を持つものは脇からぶん殴る。窓超しに牽制が続く。
しかし、キメラどもの猛攻を防ぎ切れなかった負傷者が苦痛の声を上げていたのが、そこかしこで聴こえる。それに、火災が一部で起こってしまった。消火器の白煙が吹き上がる。防災シャッターで隔離された個所もできた。
非力なものや、女子生徒たちの多くは後方支援に回り、水分や武装の補給と看護に当たっている。生徒も教師も、怪我人がかなり出始めた……やばいな、このまま勝てるとしても、死者を出さずに片付くか?
だがそれを懸念するより、いまは『志士』として目前の敵を一つずつ潰すだけだ!