共通の危機を打開する目的のためには、人はかくも結束するものだな……士気と人間性が問われ如実に現れる局面だ。切れるヤツとキレるヤツとでは大違いだからな。
風紀委員の腕章をしたものは冷静に、パニックで暴れている生徒をなだめ押さえつけて、なんとか事態の収拾を図っている。保健委員もサポートに回る。
剣道部員他武術系の連中が、技術室の資材の角材を持って武装しようとしている。握りだけ掴み易くするために、柄をナイフで丸く削り。
弓道部員は臨戦態勢だ。弓を構え窓にずらりと並ぶ。いちばん戦力になりそうだな。
美化委員と柔道部員、園芸部員とかは手斧、ナタ、カマ、スコップ、熊手などを武器にするつもりらしい。家庭科調理研究部からはごつい包丁を。
陸上部員や体操部員は、備品の長いバトンやバーを手にしている。
他にも、工作部員らしきはレンチやバール、ノコギリ、あるいは電気ドリルで応戦しようと血気はやる生徒もいる。器用にヌンチャクや三節棍を作ったものも。
一見なよなよした文芸部員とか文科系部員らしきは、スリング(石投げ紐)やアトラトル(槍投げ棒)を即席に作り、野球部員とか球技のできるのに渡す。
机や椅子を廊下に積み重ねてガムテープで固定しがっしりバリケードを築く、ゲーム好きそうなヲタ学生も。念のため、水道水を飲用にペットボトルに溜めるものも。
極端なところでは、理科準備室から毒や酸、火薬などの劇物・危険物を持ち出した生徒もいる。化学部員に物理部員かな。
放送委員とパソコン部員はひたすら外部との連絡を試みている様子だ。しかし、繋がらない……シャットされたか。ハム無線も試しているが、悪戯と間違われて対応に必死だ。
……これらが緊急放送あってから、まだ十分も経たないうちの対応だ。そしてキメラとの戦端はまだ開かれていない。
俺もATで情報を検索する。キメラ……こいつら、666と因縁があるな。獣の数字にして悪魔の数字、同時に人間の数字である6を3つ並べている。その平方根、3√74が肢体の形状を示すのか。ちなみに立方根は……意味があるかな? 8.732891741。
ここまではパラノイアの妄言として。決定的情報を得た。
キメラには急所となる核、『コア』がある。それを一突きすれば倒せる!
しかし判別は困難なのだが、似たような個所の『逆鱗』がある。それに触れたら、一気に全力を超えた威力で刃向かってくる。それをさっそく、放送室に行き説明する。
やや事実を呑ませるのに手間取ったが、この校内放送は行きとどいた。
下準備は済んだ。始める。この中学にボクシング部がないのが残念だぜ!
テーピングできないのが痛いが、代わりにハンカチを一枚ずつ硬く拳に握り、俺は俄然、校庭にいるキメラの群れに突撃していた。人間技ではない、凄まじい速さと力で。
先陣を切る形、完全にキメラの不意を突いた。たちまち1/2の勝負だったが急所を突き一体仕留め、他のキメラが襲って来る前に逃げた……この力ならもしや?
試しにジャンプするとなんと、四階建ての校舎の上まで飛んだ。屋上の端に悠々着地し、事態を観察する。どっと驚きの歓声が上がるのが快感だ。
眼下では矢と鈍器の攻勢が始まった。一部の生徒たちは階上に上り、投げられるものならなんでもスリング弾にして見舞っている。倒され、塵と化して行くキメラが次々出た。
これに励まされ、パニックに陥っていた一部の多くも、回復し戦線に加わった。
この勢い……勝てる!