休み時間になったが、俺の「ファンクラブ」はいなかった。授業が技術と家庭科に、男女別れたのだ。代わりに集団でガラの悪い野郎連中が近寄る。

 うっとうしいツラ、近付けるなよ。こういうのを『猥褻物陳列罪』って法律で呼ぶのではなかったか?

 その一人は、手の指の節をパキパキ鳴らしながら俺を脅す。

「おまえが200%不可能な東大に入るのだって、無事に高校を出なければ無理なんだぜ」

 俺は吹いていた。200%というところが千両ではないか。確率統計上、100%を超える数値など存在しえないのに。百点満点のテストで二百点取れ、というようなものだ。

 この笑いは卑屈にとられたのか、さらに侮蔑(?)の声が上がる。

「おまえはせいぜい0.1万馬力だからな」

 こいつ、俺を褒めているのか? それは千馬力だから、F1レースカー並みの出力なのに。はるか昔のアニメ『鉄腕アトム』の十万馬力から出た話題だとは解るが。手塚治虫全集なら図書室で読破していた俺は、声を上げて笑っていた。

 そいつらは嘲笑で返すが。声に焦りが見えていた。

「……笑っていやがる。何考えているんだ? 信じられねえ低能」

「……余裕かましているだけだぜ。どうせ喧嘩する度胸も無い卑屈なチビ」

「……そうだな。こいつ、馬鹿だぜ。ま、おれたちはたかが十九世紀の馬鹿にウィングシップに乗って火星人UFOと戦えと言うつもりはないからな」

 ウェルズの『宇宙戦争』を知らないのか! たしかにルーカス監督『スターウォーズ』も、生前より大昔の古典だが。科学ヲタな俺はSFなら片端から読破していた。

 俺を笑い殺すつもりか……宇宙船パイロットになれるとは大出世だ。良かったな。

 『人間が想像できることは、必ず人間が実現できる』これは魔法みたいなファンタジーに聴こえるが、SFの父が語ったセリフだ。実に希望が持てるではないか。

 そういや、こいつの家前トラブっていたな。スマホの契約をパケット定額制にして、毎月好き放題に動画閲覧とSNSのゲームにのめり込んだ。しかし、それ以外の余計な使用はしなかったので、いつも使用料金は変わらなかった。

 その親がこいつはスマホを使わないのかと誤解し、勝手に定額制を止めて累進式にして。そうしたら、月に三十万円以上振り込むよう電話会社から請求が来た。

 それに気付き直すのに三カ月近く掛かり、おまけに解約料とかも取られたから百万円以上支払わされたとか。なまじスマホを持たない貧乏人の俺に嫉妬して自然か。

 この喜劇。俺のショゴス、シュガーはなんと答えるかな?

(焔……)

 暦の切なげな声がした。俺の頭の中で。シュガー?

(焔、私おなかすいた……こいつら食べていい?)

「だめだ! それに暦の声で迫るな」

 こんどは甘えてすねた幼女の声がした。

(マイ・マスター。私には理解できません。こいつらは明白に貴方を侮辱し、傷つけようとしていたではないですか。挑発を繰り返して貴方から先に喧嘩するように故意に仕掛けたのです。貴方に明白な敵意を持っているのですよ?)

「では死なない程度に血を抜いてやれ。一人当たり、400cc」

(マスター話解る。大好き)

 ここで、教室の空間に注射針が並ぶ男子の人数分現れた。背後の下腕から、静かにすっと全員を刺す。たちまち、そいつらの血は吸い上げられていった。

 野郎どもはあっけなく、ばたばたと卒倒していった。これは正確な分量、シュガーは間違えたかな? 慌てて止めさせる。しかし。

 シェイクスピアの劇作、ヴェニスの商人だったかな? 肉は切り取っていいが、血は一滴でも流してはならないと。これはその逆バージョンだ。おあいニクさま。