明けて登校してみたら、一時限目が特別授業枠になっていた。温和な中年男の数学教師が、説明を始める。これはどうやら昨日の俺の言動が原因らしい。
『……学校教師だからって、間違いはするんです。中学以上なら、専門科目以外はたいてい、生徒より知識に劣るのです。以下に例を上げます。
私の高校の体育教師は「体育教師だからって馬鹿じゃない」と言いつつ、オーストラリア旅行をした体験談で「南半球では太陽は西から昇って東に沈む」と堂々語った……。
南半球では地図が南北逆なのと、太陽が北の空を回って西に沈むことから錯覚したらしい。なんてレベルの低い高校にいたのだろう。そんなのが教師になれるんです。
中学当時、そしていまも理解できないのは『場の理論』。籠の中の鳥が籠の中で飛びあがったとしても、籠の重さは変わらないというのですが。それは単なる翼をはためかせた風圧ではないのか? その風が少しでも籠の外に吹き出れば、籠は軽くなるのではないのか?
この問題に関しては、教師も実験しなかったし……不明です。
あと物理を誤解している教師もいました。時間は、地球の自転が生み出していると。地球が止まると時間も止まるとの話でした。さらには地球が逆回転すれば時間も逆行すると……おそらく昔の映画スーパーマンの影響かと。
自転を超える速さのジェット旅客機を、延々西へ西へ飛べば歳は取らないと思い込んでいるのだからたまりません。
そいつは時間も地球の重力が生み出ていると信じ切っていた。古典名作、『月は無慈悲な夜の女王』を曲解したのか。宇宙船パイロットは歳を取らないと羨望していました。二十一世紀は民間人でも宇宙旅行当たり前の時代になっていると信じていて。
同じく、重力は地球の自転が生み出していると説明していました。自転が止まれば重力もなくなると。デンデン太鼓を振り回し、その際に紐が太鼓にくっつくのが重力と説明していて……だから回転しない宇宙は無重力とかほざいて。
それ、遠心力の間違いです。くっつくどころか、紐が切れれば紐は外へ吹っ飛びます。
同じく地球の自転が止まったら、の話題。突然止まったら、地上のすべてのものが垂直真上に吹っ飛ぶと説明していました。慣性の法則なら、水平東に吹っ飛ぶ理屈ですが。
地球の重力圏の脱出速度は、秒速11キロ。これは正しいがそれを誤解して、ロケットが地球に二度と落ちないための初速を答えなさいの答えに、秒速11キロとしているテストが出るのだからたまらない。これも古典SFヴェルヌの『月世界旅行』から出た誤解です。
ロケットは加速していき秒速11キロを超えるのであって、初速からそうなわけではない。もしそうなら圧力に潰され、パイロットはプティングになっています。
学生時代の実験のレポートで、「数値を丸める」というのがどうしても理解できなかった。単なる四捨五入とは違うし、理論が変だ。でたらめに小数点以下末尾をいじくっているとしか思えない。パソコンのエクセル関数にも、そんな計算をするのは見当たらない。
単にラウンド関数にして四捨五入したら、レポート通ったし……というか間違えてトランク関数使って端数切り捨てにしてもレポート通ったのです。
私は宗教に決して偏見があるわけではないのですが、とあるカルト宗教の信者が、「他の人が科学を信じるように、自分は宗教を信じているんだ」と語った……
宗教は信じるものかもしれないが、科学は理解するものです。科学を理屈抜きで信じでもしたら、どれほどの過失被害が生じるであろうかは、歴史が証明しているのではないか?
この辺を持って、特別講座は終りにします。後は自由時間で』
数学教師の話は、こんなところだった。