不意にはっと俺は目覚めた。なにか生温かくて柔らかい肢体に抱かれている……どうやら膝枕されて。母さん? 目を開く……

 暦!? 何故こんな場所に、それも一糸まとわぬ姿で……下半身を刺激するものがあるが、違う。俺の知る暦はこんなに肉付きはよくない、胸が短期間でこんなに成長するものか。

 そうか、夢を見ていたのだな。悪夢からとんだ好い夢だ。妙にリアル……しかし非現実? 俺はATのモノクルを掛けたままだった。繰り返し警報が入る。これは現実だ!

 これは夢ではない。この俺を抱く少女は人間ではない……周囲を確認する。空は見えない。六方を薄明かり射すピンクの……肉壁に囲まれているのか。

 アメーバ状で自在に姿を変えるモンスター……こいつは! 魑魅魍魎か……

 検索するとどうやらショゴスだな……「テケリ・リ!」とか鳴けば完璧だが。しょせんは歴史浅いラブクラフト創作上のモンスター、そこまで進化させるか。

(テケリ・リ。テケリ・リ)

 うわ、鳴きやがった! いや、声を出していない、頭に直接響いた! こいつ俺の思考をテレパシーとやらで受けたのか……

 検索を続ける。ショゴス……アメーバのような形状、しかし器官は勝手に生まれ、必要とあらば荒縄のような筋肉の四肢も生える。顔、眼耳鼻口も同様。

 知性もかなり高いし、知性そのものを極端に進化させる可能性もあるな。

 と、ここまで調べた時。そいつの身体は変わっていた。現れたのは絶世の美少女だった。こいつはショゴスロードならぬ、ショゴスプリンセス……

 まさに俺の理想の少女だ。かなり印象が暦と被るが、それを上回る美形。自分の持ち物が怒張するのを感じた。そうだよな、俺だってもう『体験』しても良い年頃……

 いけない! 俺は『初めて』の相手は暦と決めているんだ。それをこんな化け物紛いの女で済ませるほど、俺は安くない!

 ここで、視界が暗転した。俺は仰向けに寝転がったまま、頭をアスファルトの地面に落とされた。もとが膝枕。大した高さではないので小さくコブを作る程度の打撲だったが。

 暗いと思ったがすぐ眼が馴染んだ。いつもの街道。街灯が光っている。そして……

 美少女ショゴスの姿が変わっていた。まるで鏡だ。俺が映っている……違う、いつもと逆……左右対称だ。ショゴスは学ランを着た俺の姿になり、膝を付いて俺を見降ろしていた。

 こうして『自分』を見ると、つくづく美形だよな……俺がたくさんの女子生徒たちから、モテる理由も解る。男子連中から妬まれる訳も。

 しかし、目付きは……恐ろしく鋭い。俺こんな怖い顔をしているのか、これでは男に喧嘩売っているようなものだ。いや、きっと今日柔道で事故ったからだな。

 そういや俺は一部の女子から『ツンデレ』と呼ばれていた……時事に疎い理系少年の俺には意味が解らなかったが。ちなみにその女子は、『婦女子』と丁寧に呼ばれていたな。

 とにかく動かなくては埒が明かない。俺は立ち上がった。俺を見詰めていた『俺コピー』ショゴスも同様だ。二人で闇夜のさみしい居住区の細い道路に対峙する。

 これからどうする? これが現実なのだから、先程ブレザー姿の高校生を食べたのはこいつで、つまりこいつは人殺しの人食い……?!

 こいつは俺に殴り掛かって来ていた!