海神とのオフ会……けっしてデートなんかとは呼ばない、はこうして波乱の内に終り、翌日。焔と中学で会った。私は感嘆とこいつを賞賛した。

「いささか派手に暴れまわったわね、焔くん。戦闘機六機も撃退したのでは、貴方いわゆるACEってやつよ」

「俺たち三人なら楽勝さ」焔はさらりという。「PCを行うことは一つの人災である。すべての個人はあらゆる差別を受け、マンチキン精神にのっとりPCを行う権利が認められず、それには侮蔑、迫害そしてラフプレーの精神に基づく相互不信で嫌われる」

「はあ?」

 呆れかえる私に焔は吹いている。

「いつも月夜に米の飯、か。米の飯に豆腐の味噌汁、茄子や白菜、大根の漬物にメザシ三尾もあれば十分だよ」

「鰯で精進落ちというわよ。どうせならたまにはぜいたくをしてよ」

「洗いざらしの服に一汁一菜飯が真の任侠の士さ」

 焔はほんとうに芯から強い……だが私は懸念していた。堅い木は折れるものだ。対して柳に雪折れなしという。私は引用した。

「ハッカーとは手斧使いのこと、斧を掲げて淵に入る、この無為も逆転できる。木に縁りて魚を求むならぬ戦争、Warを求む、か」

「手斧使いか、それは好いね。1stガンダムみたいで洒落ている。ヒートホークだっけ」

 つくづく天然だな、こいつは……。たしかに、強い。だから危なっかしい。『提灯持ち川へはまる』という。旗手、時代の先駆者パイオニアは常にその危険がある。指摘する。

「泳ぎ上手は川で死ぬ、というわよ。自分に過信は禁物」

「手厳しいね。ま、世の中をなめたガキさ、俺はどうせ」

 ここから二人で論戦となった。

『……話は飛ぶが、私見では人口爆発して地球を食い潰しかねない人間を節制するために、いまのデフレだった政策が執られ、経済世界はあると信じる。生保受給者や働けない障害者を人間の屑とみなすお幸せな軽薄狭量短絡的馬鹿が働いてもいない学生に多いのは呆れかえる。自分だっていつ事故に遭うか病気になるかわからないのに。

 科学文明は発展しているのに、世界的に不景気と貧困が続くジレンマの答えは?

 労働者を酷使し搾取する一方で、自ら働きもせず暴利貪る資産家とオイルメジャーに正当な存在意義があるとするなら、環境汚染・自然破壊・資源枯渇を牽制し掣肘すること。

 アメリカが圧倒的な原油資源消費で環境汚染を馬鹿みたいに撒き散らしていた一方(震災福島原発メルトダウンと中国のPM2.5以前なら、アメリカの環境汚染は二位のドイツの十倍以上だ)、日本はデフレ景気で経済水準を故意に低く抑え、代わりにその困窮下で数々の省エネエコ機器を発明してきた。

 桁違いに廉価で量産可能な太陽光発電、エコなハイブリッド車、ガソリンよりはるかに電費コストの安い電気自動車。省電力のLED灯など。なにより燃料電池、再生可能な環境。

 日本の革新的な技術開発の数々。著作権に換算しただけでどれほどの巨額となるか。ましてや、工業製品輸出なら。需要はある、電力を知らない人間は現代なお、十五億人はいる。もしこれらを全世界に売り込めれば、日本に希望の未来は十分にある。

 日本が赤字国債を千兆円以上という巨額の雪ダルマというのに、財政破綻しない理由はこの技術力にある。それと埋蔵資源。過去、日本の十分の一未満という赤字国債で破綻転覆した国もいくつかあるのに。燃料電池は凄まじい。スマートコミュニティ計画。

 故に人口問題を解決するなら、バースコントロールでは不可能、食料だけ支給・制限しても無意味。それよりは教育と福祉、なにより娯楽面と教育面双方のメディア文化を拾足させれば、どこの国も日本みたいに少子化するはず。

 それにしても、ネットでは馬鹿が多い。軽々しく中、韓、北を侮辱する。根拠のない日本の平和信仰と、米軍の盾に隠れて良くそんな口が叩けるものだ。いまの時代解るのは、先に動いた方が負け、ということだけだ、おそらく。

 仮に戦争が起こったら、侵略側が国際非難を浴び多国籍軍の出動下で自滅する。これはまさに、自国を被害者として正当化できる理由だ。だから日本の外交はあんなに弱腰にしているのだ。これは正統派の戦略と言えよう。

 これで、近隣国がたびたび日本を挑発する理由も解る。つまり日本に『攻撃』してもらいたいのだ。そうすれば、自分が被害者だと主張できるから。は、くだらないな。ガキの喧嘩とどこが違うか。

 右翼でも左翼でもない本当の有識層は、どこの国だって平和論者だ。戦争を憎んでいる。戦争に兵役を当然な義務と押し付ける政府を、例え自国でも嫌っている。

 日本が徴兵制になると囁かれているが、ろくでもないことだ! 許せない。国民への裏切りだ! 自衛隊は志願兵制だからこそ世界に認められる日本なのだ!

 しかしやる気はあっても道は迷うものだ。順調に見えて、いつかおかしくなる。

 それに官僚は強い、完全実力主義。能力なんかより地盤のコネやカリスマ、著名度で成り立つ政治家なんて問題ではない超エリート。彼らに対抗できるのは官僚だけだ。

 一介の庶民がその欺瞞の板挟みになるのは愚かしい。専横を許すのはやつらが善政を敷くならのこと、さもなければ官軍を称する最低の国賊だ。それこそ東京新撰組の敵!

 もっとも雷帝は……少なくとも私、暦は、大麻草栽培を目的とする賀茂の意図は迷ってしまう。マリファナ利権絡むか、二酸化炭素対策か。とにかく血で血を洗うようになる前に、東京新撰組、自衛隊、近隣国、多国籍軍らの過激派の尖兵を抑えなければ! ……』

 しかし、海神は賀茂の肩を持っているのか? それに焔はどうなのかな?

 焔は答えていた。

「俺は東京新撰組幹部に反対だ。大麻草栽培はおそらく地球を破滅させる。何故なら……」

 ここで、ラブロックのガイア理論のレクチャーを受ける羽目となった。日本の川は、外来魚ブラックバスなどにより、生態系が破壊された。生物の種の絶滅の原因は、人間による乱獲や環境汚染なんかではなく、恐竜を滅ぼした巨大隕石ですらなく、最たるものが有力な新種の登場による自然淘汰なのだと。

 一例として、蕎麦が挙げられる。蕎麦は繁殖率高く、雑草なんか刈らなくてもそれらを押しのけて枯らして成長する強い穀物だ。これは一見食料問題に頼もしいが……気付く。

 つまり、大麻草栽培が裏目に出たら、地上は酸素を生みだす以外は無益な大麻草に覆われてしまうのだ! つまり前世紀末ですでに遺伝子解析はほとんど終わったというのに、生物への遺伝子操作の応用がほとんどされていない理由はここか?

 私は強く意見していた。

「ひょっとしたら、二酸化炭素の低下はむしろ氷河期を招く危機さえあるわね。恐竜絶滅よりももっと大きな生命の絶滅、地球の種の96%が滅びたという原因は、植物プランクトンの活性化による二酸化炭素の欠乏の結果の冷害、氷河期だった説が有力だし」

「そういう説もあるね。科学も歴史もなにが真実か解らないけれど」

 私と焔は、喧々諤々の論争を始めていた。周りの何も知らない平和な厨坊から見たら、気が狂っているような光景だろうな、と内心失笑していた。