私は自室で今夜も、うつうつと懸念を思案していた。現代の世界、経済、社会、環境について。はは、中学生の考える問題か? いや、これこそ若者の義務だろう。

 中国は過剰な生産力を誇り、世界各国にデフレをもたらしている。これは経済の安定にとっては、世界的に喜ばしいのだが。日本がインフレ経済の結果円安なんかになったら、中国とまともに商売できなくなる。世界経済が一気にこけることもあり得る。

 経済水準が低いと思われるのは、この価格差のトリックだ。事実はすでに、中国経済は世界一だ。中国がインフレになれば、一気に世界を席巻する。一億ネット世界の中国、情報規制しても世界の五分の一以上の人口の大国、一国のみで成り立つ力がある。

 しかしこの安い労力に世界は依存している。異国から見れば飢餓的賃金の搾取される労働者。けっして敵対すべきではない。政治的にも経済的にも歴史的にも人道的にも。

 いまだ経済は日本円に依存しなければいけないか。今後世界的に暴落の恐れすらある貨幣。しかし電子マネーのセキュリティの安全が、数学的に確約できないとほぼ立証されている以上、日本銀行券に頼るしかない。強く、正当で安全な円の確立のために。

 前世紀の科学文明はユートピアを目指すものだった。労働者が資産家の搾取から解放された理想郷。しかしむしろ現代社会の方が労働は厳しくなっている。機械化による省力化が前提にあるのに、その生産と保守点検維持の労力が掛かり過ぎだ。

 それなのに、理系人間は文系人間に低く扱われている。一部のエンジニアがその気になれば、社会なんて軽く転覆するのに。こんな真似文系にはできない。

 『文学など低俗。飢えで死んでいく難民にはなんの価値も無い』、とノーベル文学賞を辞退した作家、思想家がいた。それも前世紀の話。『人はパンのみに生きるにあらず』、この意味を哲学者サルトルですら理解しえなかったのか。

 食料を満たしても文化面を満たさなければ、性欲に走るだけだ。バースコントロール以前の問題だ。この矛盾が人の文明の興亡の繰り返しの理由と邪推する。

 混迷する現代の世界経済だが、原油の価格が二割下がれば、なんら問題は無い。不可能はないはず、オイルショック時に原油価格は四倍に跳ね上がったのだから。それが半額どころか八割になったところで、オイルメジャーは痛くもかゆくもないだろ。

 自国の埋蔵資源で働きもせず王族を気取る。そんなあぶく銭連中の専横を許せないから、日本は原子力なんて手を使うしかなかったんだ。現代のジャパニメーションの土台を築いた、医師にして漫画家の巨匠手塚治虫先生ですら、科学万能原子力万歳の鉄腕アトムだものな。そして震災による原発メルトダウン悲劇は起こってしまった!

 発電コスト的に、原子力は設備投資費からして格安なのだから無理はないが。化石燃料の半額近く。現在有望視される太陽光発電に至っては、二十分の一以下だ。一基3000億円で原発は作れるが、太陽光なら6兆円設備に必要という試算なる。

 光で発電した電力も、現段階では送電電気代の二倍くらいしてしまう。国は、これを過剰電力は買い取ってくれることにしているが、原価の二倍近い差額は税金から捻出される。

 それでも理想をいうなら、太陽光・風力・地熱発電は、施設さえ作ってしまえば、燃料コストを掛けずに運営できるから、十年、二十年と使っていれば保守点検維持費を差っ引いても、いずれペイバックできる理屈だが。太陽光はまだ発電コスト的に、風力は日本の国土面積的に賄えない。地熱はその点有望だ。日本は火山の上に位置しているのだから。

 つまり皮肉にも、大震災を起こした元凶の活火山を資源にできる。なにか宮沢賢治著作、グスコーブドリの伝記を連想してしまう。それは冷害による作物の凶作が背景にあったが。人工的に火山噴火させ二酸化炭素を増やすために自爆するなんて、いまは考えられない。

 むしろメタンハイドレートだって、日本は大変な資源を保有している世界有数の国だが、メタンは二酸化炭素の二十倍もの温室効果ガスとなる。もっとも、使わないで自然のまま放散させている方が無意味なので、効率的に積極的に使うべきだろう。残飯や排泄物から出るメタンの有効利用も有望だ、それなら二酸化炭素削減にも繋がる。

 だから現代日本は、燃料資源的にも科学技術的にも、世界稀なフロンティア大国なのだ。これでは隣国が眼をつけて圧力を掛ける理由も解る。地理的にも有望だ。

 これらの事実を知らないで、『中、韓、北、露、米』『原子力』『CO2』と聞いただけで、目くじらを立てる短絡的メディア漬け人間にはなりたくない。

 浅き夢見し酔いもせず、SFだが……タイムマシンで知られるウェルズはなんと原爆が生まれる三十年も前に、核兵器廃絶を訴えていた。月旅行の地球脱出速度も海底二万里も現実とほぼ一致した。奇妙な符合だ。これらが偶然の一致なのか? それとも人間の想像力は、現実世界を物理法則から書き換えるのか? 量子力学の霧。は、とんだパラノイアだ。

 悩むより行動だな。いまは……武器を磨く時。使っている鍬は光るという。使わぬ錆びる刀に勝る。農民平民出身の、新撰組の意地に賭けて。私は立案中の新たな開発環境……オンリーグラフィカルインターフェイス、『OGI』のアルゴリズムのメモに入った。

 ツクールツール並みのひな型を作れば、後は流行りさえすればエンドユーザーが勝手に拡張してくれるはずだ。問題はいかにして普及させ、かつ理想的に昇華させるかだが……