悪徳高利貸しの件は、私がベッドに寝ていたその夜の深夜二時までにあっさりと片付いた。雷帝の暦と焔はいささか派手に電脳世界から主だった連中を荒らしまわったが、果たして経済混乱が起こるか? そいつらの貯め込んだ汚い金の額と言えば、自転車操業状態のこの日本の国家予算の実質回転費にもすがれるのだから呆れる。
そうした暴力団絡みの組織が、政治屋とつるんで権力基盤を固めているなど、許し難い。ブルジョア資産家なんか、普通の労働者どころか会社経営者だって、まず一生顔を見ることのない存在だ。知ったことか。
私は人気探偵アニメを閲覧しながら、ふとトリックを思いついた。即席着火細工。乾電池を直列に数個並べ、それにむき出しのアルミ箔を巻く。電流はショートしてアルミ箔は高温になり、いずれ自然着火温度を超える。ティッシュやトイレットペーパーに触れさせておけば楽勝だ。火事になっても証拠は残らない。無論誰にも打ち明けられないけれど。華氏451だな。そのころは路上で携帯ラジオを聞くくらいで文明の衰退が危ぶまれた、か。
ここで焔にリンクする。私は事実を痛快気味に諧謔し軽く笑った。
「とんだボランティアをこなしたものね。やつらの利益の万分の一も貰っていたら、私たち億万長者になれたわね。グレーゾーンの犯罪すれすれ……というか完全な違法行為しただなんて。こんな大きい山を踏む経験、生まれて初めてよ」
しかし焔は無視したのか、数字を読み上げている。
「6、28、496、8128、33550336、8589869056……これは110、11100、1111000、111110000、11111100000……」
「何を言っているの?」
「小難しい証明式を文に直せば、完全数は二進数に直すと、すべて1の羅列に続き、次いでその桁より一つ少ない0の羅列が続くということ」
完全数……検索した。約数の和が元の数と同じになる数か。焔は常に数学している。
返す言葉が見当たらなかったが、焔は語る。
「……かならずしもこれに当てはまる数が完全数ではないけれど、たとえば120とかは違う、でも俺が計算した範囲では完全数はみんなこう。仮説としては、故に完全数に奇数は無い。それには二進数に直した時、1の位が1でなくてはならないから」
験算してみた。たしかに当てはまるらしいが、すぐに桁数がATの限界値を超えてしまった。ソフト上、整数変数をとても長くビット数つなげて処理しなければ無理だな。焔、この数学馬鹿の性癖はほんとうに理解しがたい。
焔は面白そうに続けていた。
「さらに言えば奇数ではないともされる十進数の1も、完全数とみなせるかな? この公式に当てはまるから。すると奇数の完全数はないし、十進数で末尾が6か28の完全数が発見されて無いことを考えると、末尾が1の奇数の完全数が、どこまで調べても無いことの証明式となるかもしれないね」
「研究が核心的なほど、受け入れられないもの。理解できないのが数学。私にはとてもついていけないわ」
「俺の手にだって、とても負えないさ……無限の数学の世界は。手に負えた人間なんていた試しが無い。もしいたら、宇宙のすべての神秘は解き明かされているはずだ」
数学こそが、宇宙を支配する鍵、か。物理も化学も生物も、あらゆる自然科学は数学に根差し、自然科学は文化に応用され、現代文明の礎となっているのだから。