私は今夜も一人自宅の自室でベッドに仰向けになり、東京新撰組の志士『雷帝』となって以来ここ最近の習慣でATを起動させていた。午後十時だ。
ターゲットとなる悪徳高利貸を検索……、少し調べると雨後のタケノコみたいにヒットする。情報の配信元も確認する。
SNSとかの広告では、芸能人の顔を利用し月利5%の金貸しが当たり前に気軽く宣伝されている。いまや廃れてあまり見ないTVCMでも同様。『ご利用は計画的に』って、なんの皮肉だろう。これがとんでもない暴利なのに気付く人間はどれだけいるだろうか?
月利5%は年利に直すと、80%に近いのだ。銀行なら担保さえあれば、年利10%程度で貸し付けてくれるだろうから、差は決定的だ。普通の人に払い切れる額ではない。
ましてトイチの利子など言語道断。月利に直すと3乗して13.3%に増えただけに思えるが、年利だと12乗し310%に達する。意外と知らない人は多いのでは? 高校理系の指数計算を知らないヤツは地獄を見る。これはたしか刑法だか民法に抵触するはずだから、踏み倒してもまるで気が咎めないな。
というわけで、潰す! そんな悪徳業者構う事は無い、PCをクラックして顧客データ消してやる。もっともバックアップがどこにあるか解らないから、クラックはスパイソフトであらゆる保存場所を確認してからになるな。
焔ならバックアップをすべて読み込み不可にできる小細工アプリを作ってくれるだろう。私でもアルゴリズムの土台だけは思いついたのだから、彼には。また武器が増えるな。将棋なら『手駒は多い方が良い』、か。もっとも終盤は駒数よりスピードだ。兵は拙速を尊ぶ。
ふと、つぶやく。
「打ち歩詰め、か……禁じ手の反則負け」
とっくに最高の名棋士をスパコンが打ち負かし追い抜いたいま、焔は過去お遊びで作った将棋ソフトで、プロ棋士三段並みの強さを弾き出していた。しかし焔は自分で考えて将棋を指すのは苦手で、アマ初段にも勝てないのだから矛盾した子供だ。そもそもそんなソフトを作れる時間を割いているのだから呆れてしまう。
なんたって授業中、熱心にノート取っているように思えて、こいつは授業をさぼってプログラムコードを書いているのだ。これは中学では『でたらめ英数文書き』と有名な噂だ。
私も焔に倣って嫌いな教師の授業はPC言語学んでいるが、私たちはこの悪癖をすべての勉学に向ければ、とんだ優等生になれるかもしれないが。知識詰め込み偏狭の学校教育には疑問を感じる。
いくら知識があっても、実社会に応用出来なければ無意味だ。このことを、たいていの教師は解っていない。しょせん『勉強のための勉強』しか経験していないのが学校教師だ。
この情報化社会、検索すればほぼなんだって知識は得られる。必要な情報を逐次仕入れ、実現実に反映させるのが現代人の生き方というものだ。
だからいまは学ぶときだ。東京新撰組の実情は知らない。史実の新撰組は、歴史では敗北した賊軍とされている。『勝てば官軍、負ければ賊軍』の典型例だ。決して大義を欠いていたのではないはず。目指していた理想は、やはりこの国を……人々を守るため。
はぁあ、と息を吐く。人を守るために戦うなんて、殺し合うなんて本末転倒に思えるのは私が戦禍のない現代に生きているからだろうか……
……いけない、いけない。危険な考えだ。いまは自分を高めなくては。AT装備を外し、Object C# 言語リファレンスの本を開く。基礎中の基礎から。
PCプログラミングの基本三構造に『連接・選択・繰り返し』とあるが。このうち、連接は時間が流れるのと同じように、当たり前のこととして除外できる。繰り返しも、実は選択構文を使えば組むことが可能なので、除外しても好い。すると、『PC言語はすべて選択構文で構成できる』と言い換えられる。
つまり電脳空間、ひいてはこの世界は選択肢ですべて決まる、選択肢で運命が別れる、か。我ながら力技だな。焔ならどう思うだろう。