タンは恐慌状態で目覚めた。全身を焼かれる凄まじい苦痛の悪夢から突然解放され、うす暗く灰色だが、涼しく快適な寝台に寝ている自分を発見する……そして絶叫した。
「俺は、俺は! 化け物が! 死、死だ! ああ、ああ、ああ!」
近くにいるとても小柄な白衣の人間男性が近寄り、タンの腕に針を刺した。
タンは注射器というものを初めて見た。避けようにも、身体がベルトで固定されているのに気付く。薬を盛られた!
たちまち酩酊感とともに、気分がぐっと快適に高揚した。タンは問う。
「……ここはどこだ」
医師とは違う、軍人らしい制服の人間の長身女性が答えた。
「地獄よ。出て行くなら死ぬか戦い抜くしかない地獄の一室」
「地獄……」
馬鹿みたいにその言葉をつぶやくタンだった。俺はここに生きているのに?! いや、撃墜王ダグアに撃たれて死んで……
「そんなシケた面しないで。ここは都市国家シントの外人部隊、機甲師団の病院。貴方を助けたのは他ならないダグア三佐……師団長閣下」
「俺を助けた?」
「化け物と知られている閣下に、馬鹿をしたわね。かれは一個中隊十二機に挑まれたのに、単騎で四機落とし三機損傷させ、残りは逃がしたとか」
背筋が痺れ冷たい汗が溢れるタン。女性は続けた。
「かれを地上で殺しに、敵は歩兵二個小隊二十名あまりで挑んだのに、全員倒されしかも死者は皆無だった……投擲射撃と罠と毒薬物の権威。本気を出せば百名だってみな殺しにできる練達の刺客。まさに死神……そのダグア閣下と私がこれからの貴方の上官となる」
「そんな! 敵の兵士になれと?」
「選択肢は無いわ。貴方はカッツへ帰れば戦闘機を失って生き残った敗残の汚名を浴びる。これからはシント傭兵待遇として任務を与えます。脱走は銃殺。きみの治療費の借金を返し終わるまで。シント通貨で八千万クレジット」
「借金……俺はまた戦闘機に乗るのか?」
「それには未熟すぎます。とりあえずレンチェルノ一尉配下の機甲戦車兵となってもらうしか……私はシント外人部隊アヴィ三尉。長い付き合いとなるかは貴方の才覚と、幸運次第ね! 並行してさまざまな訓練も行うからそのつもりで」