撃墜王への『挑戦』は、意外なほど早く可能だった。師団長と言うのに部下の列機を率いず、つまりタンが倒すべきかと思っていた雑魚が皆無なのだ。

 常に防空網最前線の一角に単騎、一機で待ち構える……人間と妖精の都、魔法の国とすらいわれる堅牢な城塞都市国家シントを守る、絶対的な信頼を任された戦士の中の戦士、それがダグア……

 タンはそいつの機体が視界に入るや通信機で叫んでいた。

「ダグアだな、俺と勝負しろ! 騎士らしく正面からな」

「は、僕に挑むとはね……憂国の騎士ってわけかい? 新兵くん」

 このいささか間延びした、意外過ぎるのんびりとした穏やかな言葉を、タンは嘲笑で返していた。

「違うな。俺はただ俺の自由のために戦うんだ。国の未来なんてどうでもいい。戦争の大義なんて地獄へ墜ちろ。玉座を降りろ、撃墜王、仕込み杖ダグア。対等に空で決着を付けるときだ」

「あいにくと、僕はもとから玉座なんかに座っていない。そして無意味な戦いはしない主義でね。名誉のための戦いなんて馬鹿げている」

 優位な高空に陣取り、悠々と旋回するダグアの戦闘機は、タンのシックに向かって来る気配は無い。

「逃げるのか?」

 タンは上空に上り間合を詰めながら問う。返ってきたのは血も凍る声……

「そうしたいけれど、きみは最新鋭機か。これは速度の差には勝てないね……ならば、僕はきみを殺すよ。僕も僕の自由のためには、世界なんて関係ない。たとえ地獄へ落ちるとしても、間違いなく敵は殺す……」

 !? この瞬間、ダグアの戦闘機が消えた! 馬鹿な、自分のシックの方が速いはず……どこだ? 眼下を確認してもいない。まさか上?

 しまった、後方至近の即背を取られた……こんな一瞬で!? 格闘戦をする余裕すらないではないか! 馬鹿な!

 ガガガガガッッッ!!!   機銃弾がシックを貫いた。爆発する! 愛機戦闘機が、こんなにあっさりと。これが撃墜王の実力……

 成すすべなく燃え上がるシックの操縦席で、タンは自分の愚かさを呪っていた。薄れゆく意識の中で、なにも抵抗できないまま一方的に殺されるのが、ひたすら屈辱であった。