洞窟の奥。やや広い空間で焚火を囲み、鬼たちは戦勝に浮かれていた。酒が振る舞われ、獣の肉を焼いての宴会となる。女鬼たちが酌をする。
今回の自分の『武勲』の報酬としてはいささか安いことくらい解るが、銅貨五○枚を小袋に入れて弄びながら、タンは「上官」に訊ねた。
「戦う理由ってなんだ? 俺は意味が解らないよ。外敵と戦うのは当たり前のことではないか」
このタンの発言に、師団長の大鬼コーズの妻にして参謀の女鬼、チキが温和に答えていた。
「タン、貴方は幼すぎますね。生きる上での武器を振るっての戦いは、ほんらい邪道、下策中の下策なのです」
「ならば素手ならよいのか? 俺はそれでも簡単に負けない」
「そんな意味ではありませんよ。ですがタン、貴方はたしかに戦士です。何度も大きな武勲繰り返しました。そこで……」
「断る!」
タンは即答していた。チキはやれやれと語る。
「高潔な意志ですが、貴方はもう十分戦果を収めたのです。小隊長どころか、もう少しで中隊長ですら任せられる器です」
「俺は一人で戦う……臆病な能無しに足を引っ張られるのはごめんだ」
「現役前線勤務は、若いうちしか務まりません。たしかに有能な兵士は必要ですが。ですが答えは予測していました。特別に単独行動の密偵を任せます。それには講義と実技の訓練と試験が必要です」
「なんとでも! 俺は戦うが、逃げるべきときは逃げる……」
「それは好都合ですね。単座偵察戦闘機の搭乗員としては」
「偵察戦闘機……戦闘飛行機械?! それを俺が操ると?」
「一機銅貨どころか金貨一〇〇〇〇枚はする兵器です。任される兵士は小柄で勇敢、そして冷静な貴方しかいません、タン。それも極めて危険。少し間違えれば墜ち、死は免れません。貴方には金貨一〇〇〇〇枚の働きを願います」
「好いだろう、訓練とやら受けよう」高らかに笑う不敵なタンだった。「落ちれば即死、か。そのときはきっと自分の死に気付きもしないだろうな」
タンは自分が金貨一〇〇〇〇枚に評価されたことに、いささか満足していた。