中世西洋風ファンタジー戦記。拙作『竜騎兵、飛翔』の姉妹作に当たる、その前日談。ほんとうは短編として三章までしか作らなかったが、大幅に加筆中。小説を作り始めて二年目くらいの作品で、このころからなんとかまともに友人が読んでくれるようになった。
異国との国境間の不毛地帯、辺境の荒野へ踏み入り、人間の敵悪鬼の脅威と対峙する冒険者四人組の絆と葛藤の物語。
……
女戦士は、武器も構えず四人に歩み寄った。堂々とした態度で誰何を始める。
「私は辺境防衛軍、中隊長の騎士、エィムだ……諸君、どこの所属だ? それとも。その訛り、もしや異国のものか? 密偵ならば、容赦はせんぞ」
「われわれは、第四砦のネィル隊長から、使者の任を受けたものです」スティールが答えた。それから、二つの封筒を出す。「密書と、並びに都市レイクまでの通行証です」
異国の女隊長は無言で封筒を受け取った。通行証の方は一瞥するや、スティールに返した。
しかし。密書を読んだエィムは、しばしうつむいて目線を落としていた。そして。彼女はその書類を無造作に破り出した。ばらばらにして宙に捨てる。砦への、援軍の要請を。穏やかな風に乗り紙片は飛び去った。
パーティの四人の取った態度は様々だった。
「!」
スティールはぴくりと身じろぎをしたが、態度は変えなかった。
「?」
フェイクはきょとんと、事情が飲み込めていない様子だ。
「………」
ドグは無言で大きく長く、息を吐いた。
そしてトゥルースは声高に叫んでいた。
「なにをするの!」
「こんなものは、無効だ」エィムは端正な顔を歪め、冷徹に言う。「都市に余分な戦力はない。砦のものたちには、現有戦力だけで部所を死守してもらおう」
「砦を……見捨てるの?」
「そうだ」
「何故? あなたたちの仲間でしょう」
「軍務は、兵士風情が口をはさめるものではない。ましてや、民間人はな」
「そんな理屈! 仲間を見殺しに、なんて」
「よせ、トゥルー!」ドグが制止する。「やむない措置だ。これは、どうしようもないんだ」
「ドグ! あなた、兵士でしょ? そんなことで民を守れるの」
「そうだ」ドグは陰鬱に……しかし、はっきりと断言する。「兵士は……国という全体を守るためなら、その一部である自分の犠牲は、受け入れるもの」
「はっ!」スティールは嘲笑的に息を吐いた。流れの賞金稼ぎと宮仕えの警備兵の差異。これまで幾多も二人を衝突させた、違い。彼は断言する。「個人の幸福無くして、全体の幸福があるはずはない」
異国の女騎士は、目を細めた。「夜迷いごとを。ドグといったか? その男の言う通りだ。諸君等は戦士だな。それも、相当の場数を踏んでいる。ならば、ここの村の防衛に加わってもらおう」
「なんだと?」
スティールの顔が、こわばった。
「異国のものであろうと、異論は無いはずだな。この戦争に負けたら、人間はみんな悪鬼の奴隷だからな」
……
このように序盤は未熟な冒険者たちを取り巻く緊張感ピリピリ漂っています。この時代ではまだドラゴンは登場せず、王国は腐敗し荒廃しています。革命前夜ですね。