近未来を舞台にした太平洋戦争架空戦記。と、だけ読まれた方は本作の序章でコケるだろうな。まったく違う政治社会ネタだから。全110000字。
仮想現実賞金稼ぎゲームでゼロ戦を駆り戦う主人公不知火(しらぬい)は、上官の女子高生、霞(かすみ)に「腰抜けくん」と呼ばれながらも、独自の戦略眼でしたたかに戦い抜く。
10兆円産業にも達した巨大なマネーゲームを制するものは? その背景には数年前社会改革を引き起こした天才情報屋の影があった……
……
俺はフルスロットルで水平飛行していた。速度は二九〇ノットに達した。慎重に間合いを計る。敵の射程に入るや、操縦菅を右に倒し、フットバーに鋭く左足を踏み込んで機体を滑らせる。右にロールしながらも、機は左に流れているというデタラメな飛行だ。
このイカサマは成功したらしい。次々と上から降ってくる敵戦闘機どもは左下方へ流れて行った。そいつらは俺のゼロに向かって機銃を照射していたようだが、俺はかすりもしなかった。被弾0! かわしきった! それにしても、敵さんのこの周到にして大胆な奇襲、敵は名だたる『キラー隊』か? 最精鋭とのいよいよ全面対決が迫っているか。
敵機はF4F戦闘機であることが視認できた。グラマン・ワイルドキャットだ。速度、旋回性能、上昇力。すべての性能が、ゼロより劣る。とはいえ、この物量差では。
俺は最後の敵機の射界から逃れると、直ちに左急降下に入った。すれ違って行ったF4Fを、逆に追いかける。最後尾をすぐに照準に収めることができた。至近距離。
左手で、ぐっと発射突杷を握り締める(ゼロの機銃トリガーは左手側、スロットルについている)。
ガガガガッッ! 機銃の射撃音と衝撃が、俺の身体に響き渡った。
目前の敵機は、たちまち火を噴いた。二〇ミリが直撃したらしい、片翼が吹き飛んでいく。機体は頭から墜落していった。
一機撃墜!
敵戦闘機の大隊は依然として、無防備な背中を俺に見せていた。この体勢からなら、突っ込めばあと二機は血祭りにできるだろう。
しかし、俺は反転急降下に入る。あと何機落とせたところで、自分が生還できなくてなんの意味がある? あの数の敵に飛び込むなんざ、自殺行為もいいところだ。
僚機たちはようやく危険に気づき、右往左往している。しかし、高度・速度とも劣位になってしまった今、四倍に達する敵にどう抵抗できるというのだ?
雨のように突っ込む三十五機の敵機。僚機は全機、一瞬の内に火達磨となった。
無駄死にだな。俺はせせら笑った。
……
以上、これは一番冒頭、全314ページ中、4ページ目から始まる8ページ目の戦闘シーン。ここまで読まないで閲覧を止められた方いないかな?