私の処女作に近い長編。全140000字。中世西洋風ファンタジーの戦記もの。ドラゴンに乗って戦う空中戦が主だが、戦法は現実の20世紀半ばの戦闘機を参考にしている。
主人公は争いを嫌って無頼の、小柄で非力だが比類ない刺客の撃墜王竜騎兵少年、ダグア。
次の三名、ジャックは警備兵総監の青年、スティは首席秘書官の女性。フレイは都市の女太守。
……
ジャックは封筒を受け取り、封を切って中の書類を出した。そこにはこう、記されていたのだ。
(アルセイデス司法官、セイバー卿スティレットの正式な許可として、以下の両者の決闘を認めるものである)
決闘裁判の、認可証! ジャックはそれに記されている二人の名を見て、血の気が引いた。身震いする。震える声で、スティに問う。
「なんです、これは! なぜ、こんな」
「二人は見ての通り、待ち望まれていた存在だった。なのに、その二人の意見が食い違うのよ」
「!? それはいったい……」混乱の中、ジャックは必死に落ち着こうと勤めた。状況を把握する。「こうなることを、予期していたのですか。たしかに彼らだけの決闘なら、大戦争にはなりませんが。たしかにやむを得ない措置かも知れませんが、わたしに、いえフレイに内密にしてまで、こんなことを」
「戦いの帰趨は、明らかだから。これなら、どちらに転んでも私達の得になるわ」
「そんな……」ジャックは言葉を呑んだ。しかし、決意を固め問う。「違うでしょう。この手続きは、あなたにとって苦痛のはずですが。なぜなら、あなたは……かれを、愛しているのでしょう?」
「私の個人的な感情など、どうだというの?」
「かれらは互いの正義と名誉を賭け、技の限りを尽くして戦うでしょう。その結果が、あなたの意に沿わなくても、よいのですね」
「かれを、信じているから」スティはつぶやいた。それは、口をすべらしたといってよかった。
「それが、本音ですか」聞きとがめ、ジャックは言う。「かれが勝利すれば。わたしたちは、大いなる脅威に徒手空拳で立ち向かう羽目になるでしょう」
「でも、同胞同士で殺し合うような、悲惨な事態は避けられるわ」
「だからといって!」
「私は……なにが正しいのか、なんてわからない」スティは言葉を詰まらせた。口調は、いまにも泣きそうだった。
……
以上、最終決戦前の伏線でした。これから主人公たちは寡兵で圧倒的多数の敵と交戦し……。その後に暗転が。