「神は言われた。光在れ、と。宇宙は光そのものよ。すべては周波数、振幅、波長とベクトルの違う電磁波。ダークエナジーも同じこと」
「ダークエナジーの正体が、光線だって? どういうことだ」
「正確には指向性収束電磁波。いわゆるSFによく出るレーザービーム、荷電粒子波よ。ダークマターの正体は、ダークエナジーが凝縮し質量となったもの。相対的に、わたしたちの時空と限りなく速度が違い過ぎて、エナジーとしてではなく、質量としか判別できない」
「指向性があるから電磁波としての観測は不能か。ならばもし一筋でも観測できた瞬間には、太陽系なんて吹き飛んでいるな」
「ラグナロック。スペース・ファンタジー。きっとね。人間なんかより、地球なんかより、恒星なんかより、太陽系どころか銀河系なんかより偉大な神々同士のいわば宇宙戦争の名残よ。銀河一つが、細胞一つに当たる。虚空ボイドを抱える超銀河団が無数に折り重なって、一つの思考回路や人間で言う指先みたいな器官を構成する。一モルとはおよそ6×10の23乗、人間なら10の27乗の原子からできているとも言える。銀河の恒星は10の13乗、銀河団も10の14乗以上、つまり合わせれば、原子の数が人間を構成するのと同じくらい、神々は星が集まってできている」
「旧世紀のサイエンス・フィクション。ファウンデーションも宇宙の戦士もガンダムもスターウォーズも銀河英雄伝説も……人類が宇宙へ出立したというのに、人類固有の戦争概念から抜け出せていないのだからな……宇宙は広すぎる、同胞同士で利権争いなどせず暮らしていける理想郷があって自然なのに」
「地球は狭すぎるのかも知れない。それでも人口過密な日本ですら、田舎には人里のない山林が広がっている。アメリカは広大だけど、人口は日本の二倍ほどだ」
「そんな宇宙も生まれたばかりかもしれない。銀河系すら生まれたばかりでも恒星となると話は違う。エントロピー増大則からいけば、私たちのいる銀河系の宇宙の星たちはいま中年期が大半。太陽からしてそうだから。あと十億年単位程度しか、太陽系に地球のような生態系(ハビタブルゾーン)は築けない」
「するともし時が百億どころか兆年、京年と経過すれば……宇宙はぬるま湯のスープと化してしまう」
「仮定としてはそうだけれど。相対性理論からいけば、光の速度を超えれば時間は逆行する。現に宇宙の果ては光より速く広がっていることがわかっている。逆説を使えば正当な順説だ、時間が遡行可能ならば光より速いことが自然なのだから。タキオンは質量に斥力を生むとすれば宇宙が光より速く膨張できる説明となる」
「光は電磁波、磁場の揺らぎのこと。熱とは物質の振動のこと、物質無くして熱は無い。つまりぬるま湯と化した宇宙にも物質は確固として存在する」
「熱は振動しながら電磁波を放出し、蒸発する。つまりブラックホールだって同じだ。虚のエナジーを放射して」
「マクスウェルの電磁方程式、波動関数の先進波は? 数式上は遅延波と同じく表記され、時間軸的に逆向きの成分を持っている」
「きっとそれこそが、光の速さを超えたインフレーションの理由だろうね。でもそれを人間の時間空間感覚で掴むのは困難だね」
SFもファンタジーも線引きができない……人間の感覚では捉えることができない虚数の海の離れ小島が、宇宙なのだから。
(終)