すまいるまいるさん提案企画




 私は二百名以上一度に運べる大型旅客飛行機の機長をしている。操縦席は、副機長と並んでいるし、平穏な空でなくてもいまどき自動航法で、勝手に目的地へ向かってくれる。気楽なものだ。

 そんなわけで、六時間のフライトの半ば、私は座席にゆったりともたれてのんびりとまどろんでいた。

 と、スチュワーデスの絹を裂くような悲鳴とともに、乱暴に操縦室へ男が入ってきた。

 男はドスの利いた声で脅す。

「解るな? これはあの毒薬だ。俺の言う目的地へ飛ばないと、こいつをここへばらまく」

 副機長は進言する。

「暴漢はこの男一人だけの様子ですよ」

 私はさっと、エマージェンシーバーを踏み込んだ。操縦席の扉に分厚いシャッターが下りてロックされる。これで終りだ。軽く言う。

「どうぞご自由に。もうこの機は人間の操作を受け付けない。勝手に予定した飛行場へ着陸する。そして、この操縦席からは逃げられないぞ。私たちスタッフと心中したいなら、毒を撒くのだな」

 男は呻いた。

 …… 

 これが最近当たり前の対ハイジャックセキュリティ、通称『ゴミ袋』。手榴弾一発くらい炸裂しても、機の乗客は無事に目的地へ着く秘密の罠。

 いまのところ、このセキュリティは外部に知られていないし、スタッフが犠牲になった例も無い。

 

(終)