『ガンダム』で馴染みのロボットアニメファンなら、この古典を読んでみよう。ロバート・A・ハインライン『宇宙の戦士』。
さて他のSF戦争ものに馴染んだ方にはこれは率直、ガキの読み物だと思うだろう(一読しただけでは)。戦いに理屈なんてないから。上からの命令で兵士は死地に赴き、理由なんて関係なく自分の命を賭けて殺し合う。
イデオロギー対立、正義と正義の対立どころか、正義と悪の関係すら成り立たない。兵士は命令されたら戦争しなければならないのだ!(敵が意志疎通不可能では仕方ない面もあるが)
そうした現実を前提としてあるから、むしろ大義名分で美化した、たいていの戦記ものに比べ、リアリティがむしろある皮肉となっている。
日本のラノベなんかだと端役の二等兵が、とにかく評価される。兵士としては最下位の地位の二等兵に就くまでがたいへんで、しかも二等兵になった時点で、並みの街のヤクザチンピラなんか、足元に及ばない実力を備えるのだ。
ラノベでなよなよしたティーンが佐官さまだ将官さまだと祭り上げられるのに馴染んだ方には、これはかなり深刻に映るのではないだろうか。
この背景世界は市民(シチズン)と平民(シビリアン)の格差がある社会なので、完全な右翼作品となっている。政治に決定権を持つ市民となるには、兵役を務めなくてはいけないのだ! しかも、兵役に就いている間は政治に関与できない体制だし。退役兵になるしか、市民権を得られない。
しかし、その描写は公平である。統計的に、公的な役職に就いているものが民間人と比べ、犯罪確率は変わらない、と明記してあるし。とにかくリアルなのだ。
政治的評価はともかく、戦争観に対する評価は、並みの娯楽作など愚にもつかない秀作と言えよう。余談だが、左翼学生がこれを読んでもいないのに頭から否定するのには、疑問を覚えるし。監修した担当が、戦時中下士官だった経歴で戦争を憎んでいるのを知れば、評価はかなり変わるはずだ。
これは私見なので、原作に興味のある方は検索を。かなり否定的な意見も上るはずだ。ベトナム戦争ころのアメリカ作品では仕方ないか。