……アヴィは説明を聞き入る。レンチェルノの作戦は単純明快だった。


「中隊全機、海底へ潜る。敵はこちらが水陸両用とは気付いていない。もし気付いていれば、のこのこモビルスーツを艦載して、水上艦で向かってくるはずはない。沈めてくださいと言っているようなものだ」


 アヴィはこの言葉に驚いていた。もう数カ月、ズゴック隊はここで漁をしているのに。連邦はそこまで暗愚とは信じられない。


 進言する。


「情報が正確に伝わっているか不明です」


「その情報ってやつですよ、お譲さん」アロンソは快活に言い放った。「我らはここで無益に住民と交流してきたわけではない。奉仕した労働に見合うだけの報酬を得ようとしても、ここの住民には、支払えるものは自然限られる」


 はっとする。


「つまり、偽の情報を流させたのですか……逆用された罠の可能性は?」


「限りなく低い。敵は揚陸艦を持ちだしておきながら、水雷艇の護衛はないのだから。たしかに連邦駆逐艦隊はいるが海路を航行するに、時間が掛かり過ぎることは周知のはず、連携作戦などとれまい」


 アヴィはここで考え込み、あることに気付いた。


「単独行動をお許しできますか、隊長。考えがあります。私は先行して5km陸よりのポイントで待機します」


 レンチェルノはにっこり笑った。


「鋭いね、実はその役目を誰かに任そうと思っていたんだ。これは極秘だから、説明する手間が省けてよかった。お願いします、アヴィさん」


 レンチェルノは口に、人差し指を立てて当てるジェスチャーをした。アヴィにはその意味が、単に『黙って』ということではないことを承知していた。何故ならその指が、宙を二回、くるくるっと回っていたから。同じジェスチャーを返す。


 空路! 連邦フライマンタ隊が陸上基地から爆雷投下に来る。もっとも、ちっぽけな戦闘機ごときに重たい爆雷を抱えて飛んでくるのだから、はるかに動きは鈍いはず。ならば、奇襲を絶好のタイミングで仕掛ければ、そいつらは爆雷を『一斉投下』と称して、つまり捨てて逃げるはずだ。


 たとえ敵機がどんな大軍であれ、自分一機だけで追い払える。何故なら、敵はこちらが一機とは気付かないだろうから。そして戦力集中の法則にのっとり、分散してはいないだろう。


 アロンソはアヴィに敬礼していた。


「危険な任務だが、貴官……お嬢さんに任せるよ」


 アヴィも敬礼を返し、先行のためにさっそく準備に入った。補給担当が整備と燃料・飲食料・衣類・固形酸素搬入を済ませていた。……


 


 ……作戦は上手く行ったかに思えた。アヴィの奇襲に、無意味に爆雷を海へ捨て逃げ散るフライマンタ何十機もの群れ。


 だがその一機だけは逃げずに留まっていた。アヴィ機へ急降下しただ一発爆雷を投下する。直上!


 しまった! 直撃……砕けるコクピット。脱出装置が働き、座席ごと宙に投げ出された。いくら密閉したノーマルスーツ越しでも、気圧差が応える……意識が遠のくのを感じていた。


 


 


後書き とんだピンチ! 展開は佳境へ……明日の黙祷は忘れずにいましょうね。


アヴィ akiruさま
レンチェルノ 鷲峰梓さま
アロンソ MR-Sさま