数日前までジオン公国軍女性準士官だったアヴィは、湯気上がる熱い料理……海水がベースで塩味のスープと面していた。海藻と泳ぐ歯ごたえのある鯨肉の塊を、スプーンですくい豪快に丸かじりにする。美味しい。兵食でここまで賄えるとはまさか考えられなかった。


 私は食が細かったのに、と思う。でも私の背はあるのに痩せて薄くて『つるぺったん』な貧弱な胸に、少しでも成長があればとあらぬ期待をしてしまう。


 この非正規組織となった私たちの隊長レンチェルノの料理は一流シェフに引けをとらない。孤立し軍からの補給が途絶え、食材こそ在る程度現地調達できるとして、決定的に調味料に不足しているというのに、限られた食材から絶妙な味わいを引き出せるとは。


 ここしばらくは副長アロンソ率先して漁を行う、魚肉、鯨肉が主食となるか。鯨肉は遺伝子配列によると、ブタや牛より河馬に近いらしいが。河馬も美味しいのかな。


 そういえば連邦の極秘ファイルの中に、『河馬鳥』というのを見かけた。食料なのか? ジオンはそれを入手し、『パンダオバケ』という亜種を作っているらしいが。


 いまは生き残るために、自給自足しなければならない。衣食住のうち、食は余裕で賄える。レンチェルノの医学知識で、医食同源とばかりに精製された薬無しでも内科薬はほとんど無用だった。


 住に限っては、難儀だったが。潜伏先とするここの地方はまるで未開で、宿泊施設など存在しないのだ! だから、木材の骨組みに竹の管を並べ、粘土で壁の隙間を埋め、麦わらで屋根を葺いた掘っ建て小屋を築き五百名あまりが苦心して生活していた。もっともそれも、ズゴックを重機にして建築するので、労力は低く済んだ。


 衣、特に下着類も問題だったが、ここの現地の原住民との交流で、そこへ異国の都市部から流れてきた繊維・織物類を、ズゴックで調達した食料と物々交換できるようになっていた。原住民に縄張り意識は皆無で、すぐに打ち解けられた。


 まるで日々サバイバルだが、非道な戦争なんかに加担するよりは、はるかに自由で満ち足りた生活だろう。こんな平穏に暮らせるのなら……戦争の大義なんてまるで有名無実だったのだな。


 戦争、か……いつまで続くのかな。すでに開戦から四カ月程度で、人類の総人口は半減したのに。正確には冒頭たった一カ月のルール無用の核ミサイルに、コロニー落としのルウム戦役までに。


 だから自然私たち非正規部隊には、独立独歩の思想が芽生え始めていた。軍などとは縁を切り、自分たちの持つ力で自分たちの未来を切り開くのだと。


 レンチェルノ元中尉の抱える水陸両用ズゴックの、私たちハルピュイア中隊……こんな僻地においては大変な戦力だ。


 ただ運営維持となると、決定的に物資が不足している。機体はひとたび損傷したら、修理は困難だ。資材が無いのだから。それにそんな整備できる道具もろくにない。そもそもモビルスーツに正確な知識と技量を持つメカニックが一人もいない。


 このまま戦争から逃れ、自給自足とは……長くは続かないか。虫が良過ぎるかな。ここは楽園のような生活だ。いまはこのつかの間の平穏を満喫しよう。


 


 


後書き 会話文の無い描写文。メンバー全員が地球へ降下したところですね。後は成行きのままに。




河馬鳥 カバパンダさま


アヴィ akiruさま


レンチェルノ 鷲峰梓さま


アロンソ MR-Sさま