私はアヴィ・ロング。宇宙世紀0079早々、サイド3の大学院薬学部に在学中、私には滅多にいない『親友』の青年アルバートと共にうやむやに徴兵され、ジオン公国軍上等軍曹待遇となった。
たった二週間ほどの教習で突然、いまでいうモビルスーツ、旧ザクのパイロットとなり宇宙空間を駆ったのだ。それは、ルウム戦役と呼ばれる、核兵器による虐殺戦争だった。
人間の身長の軽く十倍はある人型ロボット……それが、ジオン公国が開発した究極の兵器。私にこの兵器の操縦技量や適性があるかなど、ほとんど問題にならなかった。
何故ならどんな巨大な敵連邦艦も……ザクの核バズーカの前には一撃で蒸発したかのように真っ白な閃光を放って爆散する。なんという力強さ、なんという躍動感。これがモビルスーツ……
しかしアルバートを失ったのは、そのときだった。私は愚かにも、腐れ縁とばかり思っていたこの青年が、かけがえのない存在だということを思い知らされた。味方の砲撃に巻き込まれたのか!? そんな……こんな馬鹿らしいことが起こるなんて。
多数の敵味方艦船入り乱れる極端な混戦下で、彼我の情勢がつかめない。かといって能動探知機(レーダー)を使うのは、『敵はここにいるぞ!』と名乗りを上げるような馬鹿な自殺行為だ。しかし彼を探すためにどれだけ使いたかったか。
そんな中アルバート機は消息を絶った……帰艦後、母艦で彼の帰りを待っていたが、眠れない夜を過ごしただけだった。次の日も出撃任務を任され、まるで心あらずだが過労の身で戦った。
二週間後、南極条約とやらで核兵器の禁止が締結されたが、そんなものお上の都合上のきれいごと、前線で戦うものにはハタ迷惑なだけだ。
それからわずか一週間後の二月七日、ジオン軍は新型ザクによる地球降下作戦を開始した。あと一週間でバレンタインというのに、私にはチョコレートをあげる異性はもういない……
けっして悲劇のヒロインを演じるつもりはないが。戦時下の常だ。強く……生きなくては。
この時私は曹長に昇進していた。ありがたみは無い。軍士官の階級からすると、最低以下の地位だし。もっとも一兵士からすると雲の上の地位らしい。くだらないな、戦争なんて。
アルバート……かれ一人を案じるは欺瞞かな。自分を貶めたくはないが、私が殺した連邦兵は少なくて三ケタ、多ければ四ケタを超えるのに。
地球降下任務へ向かう母艦の中で、鬱々と時を過ごす。私は医務室に保護されていた。食べ物を受け付けず、戻してしまったからだ。真っ白なベッドに横たわり、手の甲に浮き出た静脈に針を通し、糖質点滴を受ける。
こうして二日経過したときに。流動食が届けられた。薄いミルク・コーン・ベーコンベースの肉野菜スープだった。この食事を運んできたのは、信じられないほど小さな少年だった。こんな子供が戦闘艦に乗っているなんて……痛ましい。
「体調が戻ったら食べてくださいね」
彼は優しくそういうと、場を離れた。胸の認識章から、レンチェルノ、とだけ名前は解った。あれ? 肩の階級章からすると中尉さま? まさかね。
食欲は無かったが、あまりにまろやかに鼻を刺激するスープに、ベッドを起こし、思わずスプーンを入れた。なんとも形容しようのない素敵な味わいに、胸が痛くなった。ここで、涙がこぼれた。
後書き akiruさま、鷲峰梓さま、参加ありがとうございます。他の会員さまのキャラもいずれ登板させていただきますね。よろしくお願いします。アップ遅れました。一夜漬けでっち上げはなかなかに厳しい。ちなみに、背景世界の都合上、偉大なるハム☆は登板しない予定です(笑)。