グレイシャはナイトメアに恭しく礼をした。感嘆と称える。「まさか無傷で決闘を終えるとは……腕の一本くらい覚悟していたのに、感謝する。貴方はなんという強さか……お互い時間さえあれば僕は是非とも師事願いたいところです」
ナイトメアは感情を見せない低い声で語った。「強さなど、追随する名誉無しには全くの無意味。ましてや力が強さではないしその逆も然り。剣にいくら優れても火薬式の砲弾に飛竜相手には無力。自らの力を過信したり、強さを誇示したりすることなど騎士の恥」
グレイシャははにかみつつ尋ねた。「おっしゃる通りです。もし我儘を聞いて頂けるなら、僕のグリフォンと空で戦って頂けませんか?」
「再戦か、良いだろう」
こうしてグレイシャのウィンドとナイトメアの騎竜シザーズは空に上った。互いになんという軽やかさ! しかし、速度ではシザーズが圧倒している。たちまち、グレイシャの行動半径の外へ出る。
速度の差は先手、主導権、空戦絶対のイニシアティブを意味する。シザーズは猛烈な速さで奇襲をしかけるが、ウィンドは軽やかにかわした。完全な死角を突いていたというのに。もっともウィンドにも反撃の機会は無い。このシザーズの奇襲とウィンドの回避を十回近く続けると、勝敗は決せないとして引き分けとなった。
俺はいつも通り情報を書き留めた。
× × ×
騎士ナイトメア、騎竜シザーズ:攻撃3、防御1、機動5、速度7
× × ×
ナイトメアは剣騎士団に王錫騎士団を半ば従える形で同盟条約を結成することに決した。ナイトメアの譲歩も解った。俺たち竜に獅子鷲の七騎の飛行隊については触れられず、独立した自由な采配を黙視暗証して貰えたのだ。ならば、むしろ望ましい決着だ。
どのみち王錫騎士団司令官のグレイシャまでグリフォンライダーとして空にあっては、陸上の騎士兵士への指揮が困難、そこを最精鋭の剣騎士たちに率いて貰えるのだから。
ナイトメアは命じた。「グレイシャ飛行隊、任務だ。都市レイバラにとってもっとも危険な空賊団『空界の主』に総攻撃を仕掛ける。殺さず追い払い駆逐するのが理想だが。索敵結果では総数四百騎を超える。だがディグニティの機甲戦闘機隊の攻撃に蹴散らされ、いまが掃討の好機だ、戦力は不利だが敵は士気乱れている。私も飛竜シザーズで参戦する」
ここでティナが一歩進み、暗く俯いて言う。「黙っていたけどね、私の友達がね、空賊に入っているの……それが瓦解して『空界の主』に組み込まれた」
フリントは問いただした。「空賊? ティナのような少女竜騎兵か!?」
ティナは悲痛に叫んだ。「単なる慰みものよ! 入った途端、その場にいた空賊の全員から姦淫されたらしいわ。その子私より二歳も年下で月のものもまだない生娘だったのに。そんなひどい目に毎日遭っているのに、ただ弄ばれているだけなのに、空賊を辞めなかった。すっかり素行乱れて、「力が無ければどうしようもないだろ!」なんて吐き捨てていたわ。竜の力で数にまかせて欲望のまま弱いものいじめするだけの空賊が力だなんて」
俺は激しい嫌悪感を抱いた。こんな欺瞞は許せない。空賊は潰す!
ロッドとシェイムは鋭い視線を交わし、肯いていた。彼らも俺と同意見だろう。しかし、『空界の主』の司令官ブレイヴとは民衆を護る義賊との評判が高いが?
情報を整理する必要があるな、良い評判も聞く。貧民に施しをしたり守ったりして。『空界の主』が理想的統治を行っているなら、俺たちが敵に回す理由はない。ティナの友達とやらも保護されたかも。憶測は口にできないが。
グレイシャはきょとんと空気が読めていない。というか言葉が分からず状況が飲み込めないのだろう。慰みものとか姦淫とか、騎士団長の家庭で教わるとも思えないからな。
フリントは断固意見した。「次の獲物は決まったな!」
この声に、シェイムは血が上ったらしく、一人壁の方へ向けて、高段蹴りをさっと一発かました。ティナがびくり、とたじろいだ。
フリントは指摘した。「シェイム、きみは軽く威嚇したつもりだろうけれど、実戦を知らない素人なら委縮する。あの蹴りでは十五歳の子供だって食らっても倒れはしないだろうが、民間人なら回避も防御もできずもろ受けして戦意を喪失する。きみは傍から見るだけでとても強い巨漢なんだ、周囲に恐怖を与えることは避けろ」
シェイムは赤面していた。みんなに向き直り、厳粛に「すみませんでした」と一礼した。これは騎士の習慣からすると考えられないことである。
しかし俺は、それにシェイムは知っているのだ。度量でも技量でもとても、このみんなの中で一番小柄なはずのフリントに敵わないことを。
ナイトメアは感情を見せない低い声で語った。「強さなど、追随する名誉無しには全くの無意味。ましてや力が強さではないしその逆も然り。剣にいくら優れても火薬式の砲弾に飛竜相手には無力。自らの力を過信したり、強さを誇示したりすることなど騎士の恥」
グレイシャははにかみつつ尋ねた。「おっしゃる通りです。もし我儘を聞いて頂けるなら、僕のグリフォンと空で戦って頂けませんか?」
「再戦か、良いだろう」
こうしてグレイシャのウィンドとナイトメアの騎竜シザーズは空に上った。互いになんという軽やかさ! しかし、速度ではシザーズが圧倒している。たちまち、グレイシャの行動半径の外へ出る。
速度の差は先手、主導権、空戦絶対のイニシアティブを意味する。シザーズは猛烈な速さで奇襲をしかけるが、ウィンドは軽やかにかわした。完全な死角を突いていたというのに。もっともウィンドにも反撃の機会は無い。このシザーズの奇襲とウィンドの回避を十回近く続けると、勝敗は決せないとして引き分けとなった。
俺はいつも通り情報を書き留めた。
× × ×
騎士ナイトメア、騎竜シザーズ:攻撃3、防御1、機動5、速度7
× × ×
ナイトメアは剣騎士団に王錫騎士団を半ば従える形で同盟条約を結成することに決した。ナイトメアの譲歩も解った。俺たち竜に獅子鷲の七騎の飛行隊については触れられず、独立した自由な采配を黙視暗証して貰えたのだ。ならば、むしろ望ましい決着だ。
どのみち王錫騎士団司令官のグレイシャまでグリフォンライダーとして空にあっては、陸上の騎士兵士への指揮が困難、そこを最精鋭の剣騎士たちに率いて貰えるのだから。
ナイトメアは命じた。「グレイシャ飛行隊、任務だ。都市レイバラにとってもっとも危険な空賊団『空界の主』に総攻撃を仕掛ける。殺さず追い払い駆逐するのが理想だが。索敵結果では総数四百騎を超える。だがディグニティの機甲戦闘機隊の攻撃に蹴散らされ、いまが掃討の好機だ、戦力は不利だが敵は士気乱れている。私も飛竜シザーズで参戦する」
ここでティナが一歩進み、暗く俯いて言う。「黙っていたけどね、私の友達がね、空賊に入っているの……それが瓦解して『空界の主』に組み込まれた」
フリントは問いただした。「空賊? ティナのような少女竜騎兵か!?」
ティナは悲痛に叫んだ。「単なる慰みものよ! 入った途端、その場にいた空賊の全員から姦淫されたらしいわ。その子私より二歳も年下で月のものもまだない生娘だったのに。そんなひどい目に毎日遭っているのに、ただ弄ばれているだけなのに、空賊を辞めなかった。すっかり素行乱れて、「力が無ければどうしようもないだろ!」なんて吐き捨てていたわ。竜の力で数にまかせて欲望のまま弱いものいじめするだけの空賊が力だなんて」
俺は激しい嫌悪感を抱いた。こんな欺瞞は許せない。空賊は潰す!
ロッドとシェイムは鋭い視線を交わし、肯いていた。彼らも俺と同意見だろう。しかし、『空界の主』の司令官ブレイヴとは民衆を護る義賊との評判が高いが?
情報を整理する必要があるな、良い評判も聞く。貧民に施しをしたり守ったりして。『空界の主』が理想的統治を行っているなら、俺たちが敵に回す理由はない。ティナの友達とやらも保護されたかも。憶測は口にできないが。
グレイシャはきょとんと空気が読めていない。というか言葉が分からず状況が飲み込めないのだろう。慰みものとか姦淫とか、騎士団長の家庭で教わるとも思えないからな。
フリントは断固意見した。「次の獲物は決まったな!」
この声に、シェイムは血が上ったらしく、一人壁の方へ向けて、高段蹴りをさっと一発かました。ティナがびくり、とたじろいだ。
フリントは指摘した。「シェイム、きみは軽く威嚇したつもりだろうけれど、実戦を知らない素人なら委縮する。あの蹴りでは十五歳の子供だって食らっても倒れはしないだろうが、民間人なら回避も防御もできずもろ受けして戦意を喪失する。きみは傍から見るだけでとても強い巨漢なんだ、周囲に恐怖を与えることは避けろ」
シェイムは赤面していた。みんなに向き直り、厳粛に「すみませんでした」と一礼した。これは騎士の習慣からすると考えられないことである。
しかし俺は、それにシェイムは知っているのだ。度量でも技量でもとても、このみんなの中で一番小柄なはずのフリントに敵わないことを。