すべては人々の絆の上に世界は成り立つ。いのちを紡ぐこの営みは悠久に連鎖し。
 
 かくして好天の日差しの下、たっぷり酒に食べ物用意しての広場でのパーティーは始まった。みんなの騎竜たちもいっしょだ。俺こと参謀カードはディグニティ相手の基本戦術を気さくに話した。個々の戦闘は勝てる時だけ戦い敵騎や敵機、敵兵を倒さずに翻弄し、全体としては避ける戦略的退却案を。
 シェイムはビールのジョッキを片手に、俺に反論していた。「負けるから逃げるだと? は、逃げるから負けるんだろ!」
 俺は牛タンをラムのつまみに食いながら説明した。「負けるから逃げるのは自然だ。司令官は全軍の采配に当たり、大局が劣勢ならば余計な損害を避け撤退を命じる。だが無論、勝敗の決まらない内から兵士が逃げては話にならない。これが逃げるから負ける、だ」
 エッグサンドを食べるグレイシャは同意した。「僕も戦略講義ではそう習いました。騎士の名誉としては、とても受け入れ難いですが……」
「いや、これは従うべき基本策だ。繰り返すようだけど、兵士は死ぬと解っていても逃げられない。敵に殺されなくても脱走者は味方に処刑される。この愚劣な戦争って欺瞞を、少しでも解消するのが飛行隊同盟参謀としての俺の責務だ。俺はとっとと戦争を終わらせ、本業の博徒と商人仕事を再開する。穏便に済ませたいが決して服従もしない!」
 小食でゆっくり淡白なチキン味わうフリントは問う。「では僕は必ずしも味方の盾にならなくても良いのか。飛竜は戦果なく逃げる不名誉を起こすと、乗り手を見限るのではなかったか?」
 ローストした牛肉をたっぷりと齧りながら、飛竜フォースは説明した。「いえ、フリント。この場合は戦略的にて異動布陣するのですから、逃げるとは見なされません。現に、ティナとロッドの騎竜はわざと逃げ、敵を味方の懐に誘い込んで好餌にしてきたものです。わたしどもも二騎の撃墜記録がありますでしょう? ましてや味方をかばい敵の攻撃を耐えしのいだことは何十回あるやら」
 俺は発言した。「いままで俺たちは良く戦い抜いたものだ。犠牲がシャドーさん一人だけというのは奇跡に近い。今後も無事でありたいものだが、ディグニティ君主国の機甲兵器隊に対しては、あまりに戦力比率が違い過ぎる」
 ティナはスイーツ食べつつ自分の騎竜ニードルに質問した。「打開策はあるのでしょう? 飛竜にはそれだけの英知が備わっているはず」
 豪勢に樽からビールをがぶ飲みするニードルはかぶりを振った。「われらドラゴンには知性こそあれ、決定権は無いのですよ。すべては自ら望んだ主に従うだけです。作りものの竜は魂を持たないとされています」
「そんな! あなたには立派な意志と心があるわ」
 ここで水を注すように都市の役人が、驚くべき報告を三点運んできた。一つは予想こそしていたが王都陥落! 一つは君主国の機甲兵器がなんと無人ということ……神話に聞く遠隔操作? それとも機械式機動? さらに、悲痛な一点。『解放』された都市では住民が蜂起し、貴族や地主、豪商の館や教会寺院、商店や倉庫などを襲っている!
 ティナは言った。「この凄惨な光景を否定することを、名誉の勲章としましょう。『もし、ならば』……を考えるのがすべての学問。技術、精神練磨の基礎と思います」
 グレイシャはやりきれなさそうに嘆いた。「戦闘の混乱に乗じ、敵兵士が非道を行うならまだ解りますが、民間人すら火事場泥棒の暴徒と化すとは……恥知らずにも士気が低い。倫理観が王国の民衆はこれほど脆かったのですか? いまは警備兵も無力化したでしょうから、治安維持はできないのか……」
 サーナは酒を止め代わりに水を飲んで、冷静に意見した。「おそらく扇動者がいるわ。弱みに付け込めと吹聴しているのでしょう、その結果よ。無法地帯になったわね」
 シェイムは言い放った。「許せませんね、扇動者……君主国の密偵でしょうか」
 ティナは否定する。「違いますよ、王国の盗賊連中かなにか。ただでさえ君主国は決定的に勝っていたのだから卑劣な手段は取らないはず。でも盗賊なら利益の大半は上納金として幹部連中に集まる。自然勝手に大儲けする算段よ」
 グレイシャが罵った。「そいつらなに考えているのかな。国が亡くなったら財宝も価値がなくなる道理なのに。これではまだ君主国の機甲戦闘機隊の方がマシですよ。もっともその無法地帯を作ったのもそれか……」
 俺はつぶやいた。「王国首都はすでに陥落した、するとグレイシャは亡国の騎士団長か。強大な王錫騎士団騎士兵士の指揮権を継いで。責任重大だね」
 グレイシャは言ってのける。「それでも名誉に掛けて、最後まで戦い抜くのが騎士というものです。例え負けると解っていても」
 シェイムが断言した。「同感! 騎士を捨てた今でも一戦士として俺は戦う」
 俺は否定した。「負けるために戦うなんて愚行中の愚行だよ。負ける戦いなら、退いて戦力を温存しなくては。生きてこそ、いずれ勝機は廻る。各々の速度に応じて部隊を分けるか。速度が4以上と3以下に区分する。機動戦術が必要だな……戦力を分散する形となっても、連携を密にすれば問題ない。俺はハーケンからブレードに乗り換える。グレイシャと足並み揃うからね」
 ティナはつぶやいた。「実質、頭脳はカード先生ね。強力な指導者だわ」
 俺は軽く笑う。「指揮官はグレイシャだよ。騎士兵士を統率する立場上はね、俺の意見もすべてグレイシャの功績に帰するものだ」
 この言葉にグレイシャは恥じらんだ。「司令官は大局の最終司令を下すだけで、実質的な作戦指揮は参謀の役目です。カードさまに全権お願いします」
 俺は答えた。「いっそのこと、決まった拠点を持たずに戦うべきだね、各地を放浪して。当面の資金があれば、騎士団は二カ月くらい持つ。俺ら七騎の飛行隊だけなら、狩りとかで自給自足できるしね」