もはや故事来歴は明らか。籠の鳥とは民間の有志で結成された、世界を敵に回しても戦い抜く、抵抗組織。世に欺瞞ある限り何度でも現れる……時代を超えて。
七騎で編隊を組み城塞都市レイバラへ帰還中の空路にて、俺、カスケードことカードはつぶやいた。「ジャッジ・エアフリートか。解放軍を名乗り義賊を演じてまあ……大義は圧政の王国を打倒、か。だけど王国とはそんなに悪辣だったのかな。グレイシャのような潔癖な女騎士、騎士団長を輩出しているし……」
だがこの問いにフリントはいつになく辛辣に吐き捨てた。「悪だ! 罪の無い民を弄り殺し、農奴を始め多くを奴隷に貶め苛烈に使役し、隣の独立都市へ侵略戦した。殺戮、略奪、凌辱の限りを働いてそれを武勲と誇る悪魔だ! カード、きみほどの男が戯言を」
空を見回す……騎士団長グレイシャは悲しげだ。元金貨騎士シェイムは電撃に打たれたように恥じ入りうなだれている。元神官ロッドも苦痛の影が見える。
ロッドは意見した。「王国は腐敗しています。一部の特権階級のものがのさばり好き放題。私のいた、聖杯騎士団と金貨騎士団も例外ではありません」
肩書きだけは、王国騎士団長の一人クラブ卿グレイシャはぽつりという。「僕の王錫騎士団は違うと思います。精鋭剣騎士団も」
サーナは悲しげに語る。「戦いは勇猛だったけれど、弱い都市を侵略して陥落させたのは許されない。占領後は住民に暴虐のし放題だった。無法よ」
皮肉な話だが、軍隊とは侵略すべき弱者を必要とする事実がある。征服し、褒賞の封地として騎士に分け与えるために。資金を奪い、兵士に与えるために。王国は労働力として奴隷を必要としていた。それにどのような国家であれ軍事力の半数は、治安維持……住民支配のため、自国に向いているのが現実だ。
ティナは引用した。「何故王国はいままで維持できていたか? 民衆は王国に食料と娯楽を要求した。王国はそれに応えたからよ。流通を整え食糧を安定した価格で販売し、娯楽として各種の賭博や、刺激ある闘技場や観劇のような見せ物を用意した。農奴以上の町民の中でも金も人脈も私兵もいるような権力の有る、市民階級のものは厚遇されたわけね」
グレイシャは発言した。「いま必要なのは資金と物資か。騎士兵士を維持するだけの賃金と糧食と武装だ。それと娯楽の代わりに士気を維持するだけの大義がいる……」
フリントは好意的に申し出た。「僕は武器を鍛えません。盾や鎧ならまだしもね。ですが親方の武器なら譲りますから、みなさんご自由にどうぞ。在庫を見物ください」
こうして地へ降り徒歩で街外れの鍛冶屋の倉庫に入る一行だった。室内は薄暗いが広く、各種さまざまな武具がずらりと陳列してあった。素晴らしい逸品が幾百もある。
俺はぼやいた。「鋼鉄の鎧は頑丈だけどいらないな……動きが遅く鈍くなるだけだ。攻撃どころか防御にも邪魔だ。転びでもしたら起き上がるのに難儀どころか、簡単にいたるところ骨折しかねない。剣や槍に無敵になれたって、疲れて動けなくなると終わりだ」
意外にも元騎士たるシェイムが肯定した。「同感。金属鎧は夏には暑いどころか日差しに焼けるし、雪の深く降り積る冬の行軍は地獄だよ。見事な板金鎧ではあるが」
グレイシャは反論した。「そうかな? 板金は重いけど、僕は戦場では鎖鎧をまとうよ……あ、僕が移動するのにいままで軍馬が当たり前だったからか。確かに重いね」
俺は意見する。「身を守るには皮革の服が一番だね。炎には弱いけど、それはどんな鎧に服でも素肌でも同じだもんね。軽いし、ナイフ程度の刃物はほぼ防いでくれる」
シェイムは感嘆の声だ。「俺なんかがこんな素晴らしい武器を扱えるのか……願ってもいない光栄だ。両手持ちの大きな野太刀がいいな、左肩から吊るすか。なんて美しい逸品。これなら俺はもう誰にも負けない!」
これこそ俺たち一行でもっとも長身で筋骨隆々のシェイムが、まさに真なる騎士称号を冠する瞬間だった。過去の汚名は功績で償われる。ふと俺はフリントの様子に気付いた。シェイムを見る眼が、もはや憎しみを帯びていない。
ティナは精巧な作りの弩を手にしていた。ほぼ木製だが、引き金とバネと留め具は鋼鉄製だ。弦を弾いて高い音を響かせるティナだった。「これ、ニードルの騎上でも使用できるかしら。弱点の攻撃力を補ってくれる」
俺は反対した。「だめだよ、高速飛行中は軌道が逸れる。弩の矢を当てるなんて至難の業だ。ディグニティ戦闘機みたいに連発できる機銃なら別だけど。まあ、陸上戦用に持っておくのは良いかもね」
グレイシャは意見した。「僕は、誇り高い騎士は剣で戦う。弓矢のような臆病者の武器は使うな、と教えられて育ったものだ。もっとも騎士に準じられた二十一歳からは、戦術論の一端として、長弓の訓練も受けた。それはそうと、カードさまは良い品ありました?」
俺も武具を手に取り吟味した。「鉄鎖の鞭か……駄目だな、威力はあるけど重くて遅いし、少し跳ねたら戻りが自分や味方に危険過ぎる。皮革の鞭は、一見非力に思えて最高で音の速度すら超えるんだ。人間の肌なんて簡単にブチ切れる。間合いも槍以上に長いし有利だ。それで十分だと思うな。ましてや連節棍棒だなんて打撃武器使えないよ」
ロッドはそれを手にした。「連節棍棒……フレイルですか、これは私が使いましょう。神官戦士には奇妙な戒律がありましてね。刃物を敵に向けてはいけないのです。刃物は血を流すからと説明されましたが、この棍棒みたいな鈍器にしたって殴られて血を出さないのは悪魔くらいです。これにはトゲ……スパイクすらついていますしね」
グレイシャは提案した。「有効活用しない手はない。指揮官待遇の騎士と兵士長に武器を預けよう。鎧に関しては、拠点防衛員か騎兵だけに限り装備させるよ。一方で歩兵の鎧はできるだけ軽装化しよう。機動性がものをいうからな」
七騎で編隊を組み城塞都市レイバラへ帰還中の空路にて、俺、カスケードことカードはつぶやいた。「ジャッジ・エアフリートか。解放軍を名乗り義賊を演じてまあ……大義は圧政の王国を打倒、か。だけど王国とはそんなに悪辣だったのかな。グレイシャのような潔癖な女騎士、騎士団長を輩出しているし……」
だがこの問いにフリントはいつになく辛辣に吐き捨てた。「悪だ! 罪の無い民を弄り殺し、農奴を始め多くを奴隷に貶め苛烈に使役し、隣の独立都市へ侵略戦した。殺戮、略奪、凌辱の限りを働いてそれを武勲と誇る悪魔だ! カード、きみほどの男が戯言を」
空を見回す……騎士団長グレイシャは悲しげだ。元金貨騎士シェイムは電撃に打たれたように恥じ入りうなだれている。元神官ロッドも苦痛の影が見える。
ロッドは意見した。「王国は腐敗しています。一部の特権階級のものがのさばり好き放題。私のいた、聖杯騎士団と金貨騎士団も例外ではありません」
肩書きだけは、王国騎士団長の一人クラブ卿グレイシャはぽつりという。「僕の王錫騎士団は違うと思います。精鋭剣騎士団も」
サーナは悲しげに語る。「戦いは勇猛だったけれど、弱い都市を侵略して陥落させたのは許されない。占領後は住民に暴虐のし放題だった。無法よ」
皮肉な話だが、軍隊とは侵略すべき弱者を必要とする事実がある。征服し、褒賞の封地として騎士に分け与えるために。資金を奪い、兵士に与えるために。王国は労働力として奴隷を必要としていた。それにどのような国家であれ軍事力の半数は、治安維持……住民支配のため、自国に向いているのが現実だ。
ティナは引用した。「何故王国はいままで維持できていたか? 民衆は王国に食料と娯楽を要求した。王国はそれに応えたからよ。流通を整え食糧を安定した価格で販売し、娯楽として各種の賭博や、刺激ある闘技場や観劇のような見せ物を用意した。農奴以上の町民の中でも金も人脈も私兵もいるような権力の有る、市民階級のものは厚遇されたわけね」
グレイシャは発言した。「いま必要なのは資金と物資か。騎士兵士を維持するだけの賃金と糧食と武装だ。それと娯楽の代わりに士気を維持するだけの大義がいる……」
フリントは好意的に申し出た。「僕は武器を鍛えません。盾や鎧ならまだしもね。ですが親方の武器なら譲りますから、みなさんご自由にどうぞ。在庫を見物ください」
こうして地へ降り徒歩で街外れの鍛冶屋の倉庫に入る一行だった。室内は薄暗いが広く、各種さまざまな武具がずらりと陳列してあった。素晴らしい逸品が幾百もある。
俺はぼやいた。「鋼鉄の鎧は頑丈だけどいらないな……動きが遅く鈍くなるだけだ。攻撃どころか防御にも邪魔だ。転びでもしたら起き上がるのに難儀どころか、簡単にいたるところ骨折しかねない。剣や槍に無敵になれたって、疲れて動けなくなると終わりだ」
意外にも元騎士たるシェイムが肯定した。「同感。金属鎧は夏には暑いどころか日差しに焼けるし、雪の深く降り積る冬の行軍は地獄だよ。見事な板金鎧ではあるが」
グレイシャは反論した。「そうかな? 板金は重いけど、僕は戦場では鎖鎧をまとうよ……あ、僕が移動するのにいままで軍馬が当たり前だったからか。確かに重いね」
俺は意見する。「身を守るには皮革の服が一番だね。炎には弱いけど、それはどんな鎧に服でも素肌でも同じだもんね。軽いし、ナイフ程度の刃物はほぼ防いでくれる」
シェイムは感嘆の声だ。「俺なんかがこんな素晴らしい武器を扱えるのか……願ってもいない光栄だ。両手持ちの大きな野太刀がいいな、左肩から吊るすか。なんて美しい逸品。これなら俺はもう誰にも負けない!」
これこそ俺たち一行でもっとも長身で筋骨隆々のシェイムが、まさに真なる騎士称号を冠する瞬間だった。過去の汚名は功績で償われる。ふと俺はフリントの様子に気付いた。シェイムを見る眼が、もはや憎しみを帯びていない。
ティナは精巧な作りの弩を手にしていた。ほぼ木製だが、引き金とバネと留め具は鋼鉄製だ。弦を弾いて高い音を響かせるティナだった。「これ、ニードルの騎上でも使用できるかしら。弱点の攻撃力を補ってくれる」
俺は反対した。「だめだよ、高速飛行中は軌道が逸れる。弩の矢を当てるなんて至難の業だ。ディグニティ戦闘機みたいに連発できる機銃なら別だけど。まあ、陸上戦用に持っておくのは良いかもね」
グレイシャは意見した。「僕は、誇り高い騎士は剣で戦う。弓矢のような臆病者の武器は使うな、と教えられて育ったものだ。もっとも騎士に準じられた二十一歳からは、戦術論の一端として、長弓の訓練も受けた。それはそうと、カードさまは良い品ありました?」
俺も武具を手に取り吟味した。「鉄鎖の鞭か……駄目だな、威力はあるけど重くて遅いし、少し跳ねたら戻りが自分や味方に危険過ぎる。皮革の鞭は、一見非力に思えて最高で音の速度すら超えるんだ。人間の肌なんて簡単にブチ切れる。間合いも槍以上に長いし有利だ。それで十分だと思うな。ましてや連節棍棒だなんて打撃武器使えないよ」
ロッドはそれを手にした。「連節棍棒……フレイルですか、これは私が使いましょう。神官戦士には奇妙な戒律がありましてね。刃物を敵に向けてはいけないのです。刃物は血を流すからと説明されましたが、この棍棒みたいな鈍器にしたって殴られて血を出さないのは悪魔くらいです。これにはトゲ……スパイクすらついていますしね」
グレイシャは提案した。「有効活用しない手はない。指揮官待遇の騎士と兵士長に武器を預けよう。鎧に関しては、拠点防衛員か騎兵だけに限り装備させるよ。一方で歩兵の鎧はできるだけ軽装化しよう。機動性がものをいうからな」