戦争を忌嫌う者が、この上なく優秀な騎士となりえる志士たちが籠の鳥。無常で無情な世に愛と平和を謳う。孤高の自由の志士たちが組織。
ゴオッォオオオオッ! 昼晩交代の時間迫る夕刻、街に轟音が聞こえてきた。空から、激しく空気を裂く音だ。
僕、グレイシャ……女指揮官にして王錫騎士団長にいきなり就任することとなった僕ら一同七名の竜騎兵隊は何事かとみな広場に出、彼方を睨んだ。グレイシャは値踏みした。何かが編隊を組んで飛んでいる……しかし、竜騎兵ではないな。なんという高速か。
ロッドは空を仰ぎ苦々しげに呻いた。「まさかここへやって来るとは……あれは君主国の機甲戦闘機隊です!」
馴染みのない単語に、場のみんな一様に問い返す。「なんだ、機甲戦闘機って?」
「飛行機です、銃火器で武装した。光の文明の時代のさらに前世紀、空を飛ぶために作られた飛行機械。空中を飛ぶものを撃墜するよう設計されていて、武装は強力無比長射程の機関銃。魔法染みた光の文明絶頂期には、もっと恐ろしい武装もしてあったそうですが……現代の世では再現不能。ドラゴンに比較したら、火力と装甲と速度が圧倒的な恐るべき兵器。唯一、機動性、旋回半径だけはおそらくドラゴンが優位ですが」
僕は直ちに情報を整理把握していた。さきほどの発光信号は地方都市に村々の、戦力をからっぽにする手段、罠だったのか! 竜騎兵隊の守りを失った都市は脆くも陥落。しかも要所を強襲されただけで、司令官級軍人以外には民間人どころか兵士の犠牲は皆無。略奪暴行侮蔑も一切なし。さらには、近隣の空賊連中をことごとく駆逐している! 撃墜数は少ないにせよ、大戦果だ。英雄的所業だ。これは極めて訓練され士気の高い軍隊だな。まさに精鋭だ。
相手はディグニティ自由自治権立憲君主国と名乗っている。略して君主国。小さな列島諸島の一島に位置する一城塞都市の小国だが、科学技術が格段に発達している。地理的に、極めて遠方にあるな……砂漠平原に海を越えて来たのか。
戦闘機は上空から、都市レイバラ太守館になにか撃ち込んだ! 発砲音こそしないが、なにか……それから、使いが駿馬でこの広場に面する宿『緑の樹林』亭へ走ってくる。封書を一通届けた。封蝋は太守の印で真新しかった。直ちに開ける。
サーナが書類を流暢に読み上げた。「……われらは自由と平等を旨とする。それに準じる民衆を独立させる国家として存在する。王族貴族の財産に課税するが命は保証する。戦犯として……!?」
「サーナママ、どうされました。続きは?」
「……戦犯として都市の軍事司令官職を処刑するだけで、すべての民衆を王国の圧制から解放するものである」
一同は騒然とした。「司令官職?」「するとグレイシャが!?」「まさかそんな……」
僕は即答した。「僕一人の命で片が付くなら、この命差し出します!」
みんなは一斉に反対した。カードはきっぱりと言う。
「どうせこの都市の戦力を凍結する目的だろう。グレイシャを犠牲になんかできない。俺と初の夜すら迎えていないのに!」
「迎えましたよ。僕、カード様と」思わず顔と胸が熱くなる。
「迎えてないの! ああもう……」カードは頑固に言い張っている。
「既成事実を認めないのですか?! では僕と決闘を……」
フリントがやんわりといった。「グレイシャの剣はまだ磨き終わっていません。剣での決闘はしばらく無理ですね」
「では決着は空で竜と獅子鷲、カードさまお相手を」
「グレイシャのウィンドと模擬戦なんかしたら。速度こそやや遅いが、軽快な旋回にあっという間に側背を突かれてしまう。もっともその一撃を耐えれば、至近距離の肉弾戦で俺のハーケンが牙で仕留めて終わる。互角かな」
「グレイシャさん」シェイムが指摘した。「戦争などの非常時下には決闘のような私戦は禁じられています。騎士の掟には」
「ならば素手で! これなら決闘には当たらない試合でしょう?」
僕は言い張ったが、カードは軽く吹く。
「俺は基本的な体術、刈り技投げ技払い技関節技は知っている。だが、女性相手に打撃技はできない。ましてや寝技なんて。ああ、俺紳士の鑑」
「まったく拳で語り合う、騎士らしいわね」サーナが申し出た。「司令官を処刑だなんてこんな命令に従う必要はないわ。敵は大義名分が欲しいだけ、『圧政者』の軍事的な責任と権力を持つものを罰するという。もちろん軍事的な無力化も意図ね」
ティナは同意した。「王に都市太守は無罪放免なのだから、他に理由はないわね」
「それより、この書類の署名は……ジャッジ・エアフリートとある。いくらか前に、何回か店に来た男かしら。ティナちゃん、憶えていない?」
ティナは打ち震えた。「え! まさかあのジャッジさんが……でも、生きて?」
僕も驚いた。「彼の事は、ウィンドが語っていたよ! 僕の夢の中だったけれど、たしかすべての竜の主になりえたはずだった人……何故か警告されたから、事実と思うよ」
僕はおとぎ話の記憶を思い出していた。まさかジャッジとは『魔王』? ジャンク・ジ・エアフリート……魔物竜騎兵の軍勢を引き連れて。すると僕らは籠の鳥の一員……囚われ、欺瞞の世界から自由な空を求める伝説の……おとぎ話が現実になるなんて。
僕は事態に打ちのめされていた。仲間がいてくれるのが救い……王国陥落、魔王、魔法の国、それに僕の処刑!
ゴオッォオオオオッ! 昼晩交代の時間迫る夕刻、街に轟音が聞こえてきた。空から、激しく空気を裂く音だ。
僕、グレイシャ……女指揮官にして王錫騎士団長にいきなり就任することとなった僕ら一同七名の竜騎兵隊は何事かとみな広場に出、彼方を睨んだ。グレイシャは値踏みした。何かが編隊を組んで飛んでいる……しかし、竜騎兵ではないな。なんという高速か。
ロッドは空を仰ぎ苦々しげに呻いた。「まさかここへやって来るとは……あれは君主国の機甲戦闘機隊です!」
馴染みのない単語に、場のみんな一様に問い返す。「なんだ、機甲戦闘機って?」
「飛行機です、銃火器で武装した。光の文明の時代のさらに前世紀、空を飛ぶために作られた飛行機械。空中を飛ぶものを撃墜するよう設計されていて、武装は強力無比長射程の機関銃。魔法染みた光の文明絶頂期には、もっと恐ろしい武装もしてあったそうですが……現代の世では再現不能。ドラゴンに比較したら、火力と装甲と速度が圧倒的な恐るべき兵器。唯一、機動性、旋回半径だけはおそらくドラゴンが優位ですが」
僕は直ちに情報を整理把握していた。さきほどの発光信号は地方都市に村々の、戦力をからっぽにする手段、罠だったのか! 竜騎兵隊の守りを失った都市は脆くも陥落。しかも要所を強襲されただけで、司令官級軍人以外には民間人どころか兵士の犠牲は皆無。略奪暴行侮蔑も一切なし。さらには、近隣の空賊連中をことごとく駆逐している! 撃墜数は少ないにせよ、大戦果だ。英雄的所業だ。これは極めて訓練され士気の高い軍隊だな。まさに精鋭だ。
相手はディグニティ自由自治権立憲君主国と名乗っている。略して君主国。小さな列島諸島の一島に位置する一城塞都市の小国だが、科学技術が格段に発達している。地理的に、極めて遠方にあるな……砂漠平原に海を越えて来たのか。
戦闘機は上空から、都市レイバラ太守館になにか撃ち込んだ! 発砲音こそしないが、なにか……それから、使いが駿馬でこの広場に面する宿『緑の樹林』亭へ走ってくる。封書を一通届けた。封蝋は太守の印で真新しかった。直ちに開ける。
サーナが書類を流暢に読み上げた。「……われらは自由と平等を旨とする。それに準じる民衆を独立させる国家として存在する。王族貴族の財産に課税するが命は保証する。戦犯として……!?」
「サーナママ、どうされました。続きは?」
「……戦犯として都市の軍事司令官職を処刑するだけで、すべての民衆を王国の圧制から解放するものである」
一同は騒然とした。「司令官職?」「するとグレイシャが!?」「まさかそんな……」
僕は即答した。「僕一人の命で片が付くなら、この命差し出します!」
みんなは一斉に反対した。カードはきっぱりと言う。
「どうせこの都市の戦力を凍結する目的だろう。グレイシャを犠牲になんかできない。俺と初の夜すら迎えていないのに!」
「迎えましたよ。僕、カード様と」思わず顔と胸が熱くなる。
「迎えてないの! ああもう……」カードは頑固に言い張っている。
「既成事実を認めないのですか?! では僕と決闘を……」
フリントがやんわりといった。「グレイシャの剣はまだ磨き終わっていません。剣での決闘はしばらく無理ですね」
「では決着は空で竜と獅子鷲、カードさまお相手を」
「グレイシャのウィンドと模擬戦なんかしたら。速度こそやや遅いが、軽快な旋回にあっという間に側背を突かれてしまう。もっともその一撃を耐えれば、至近距離の肉弾戦で俺のハーケンが牙で仕留めて終わる。互角かな」
「グレイシャさん」シェイムが指摘した。「戦争などの非常時下には決闘のような私戦は禁じられています。騎士の掟には」
「ならば素手で! これなら決闘には当たらない試合でしょう?」
僕は言い張ったが、カードは軽く吹く。
「俺は基本的な体術、刈り技投げ技払い技関節技は知っている。だが、女性相手に打撃技はできない。ましてや寝技なんて。ああ、俺紳士の鑑」
「まったく拳で語り合う、騎士らしいわね」サーナが申し出た。「司令官を処刑だなんてこんな命令に従う必要はないわ。敵は大義名分が欲しいだけ、『圧政者』の軍事的な責任と権力を持つものを罰するという。もちろん軍事的な無力化も意図ね」
ティナは同意した。「王に都市太守は無罪放免なのだから、他に理由はないわね」
「それより、この書類の署名は……ジャッジ・エアフリートとある。いくらか前に、何回か店に来た男かしら。ティナちゃん、憶えていない?」
ティナは打ち震えた。「え! まさかあのジャッジさんが……でも、生きて?」
僕も驚いた。「彼の事は、ウィンドが語っていたよ! 僕の夢の中だったけれど、たしかすべての竜の主になりえたはずだった人……何故か警告されたから、事実と思うよ」
僕はおとぎ話の記憶を思い出していた。まさかジャッジとは『魔王』? ジャンク・ジ・エアフリート……魔物竜騎兵の軍勢を引き連れて。すると僕らは籠の鳥の一員……囚われ、欺瞞の世界から自由な空を求める伝説の……おとぎ話が現実になるなんて。
僕は事態に打ちのめされていた。仲間がいてくれるのが救い……王国陥落、魔王、魔法の国、それに僕の処刑!