日は上った。船長ジャキら一行……航海士ケイン、コルドと少女剣士フォールに半竜少女マドゥと水夫傭兵十二名は波に揺られていた。

 商船レスト・アイランド号にワインを満載しアルセイデスを出港してから一日、仮眠を叩き起こされたジャキは異変を報告される。前方から迫ってくる船……真っすぐに向かってくるなどと、間違い無く海賊船だ! さらに報告が。後方からも六隻もの艦隊がせまっている、挟み打ち?!

 急ぎマストへ登り、計算機の望遠鏡機能で識別してほっとする。後方のあれはアルセイデス商船の護衛艦だ……すると。

 アルセイデス港元締め商人アンカスは単なるお人好しではなかった。一杯食わされた! ジャキの船は海賊へのおとりにされたのか。しかし戦艦隊など無用だったな。ここはおれ、ジャキの戦力高く売り付けてやる。

 と、ここでケインが真剣な口調で聞いてきた。

「船長、愚考ながら献策する。降伏を装い、海賊船に接弦してくれ。俺たちが飛び移って一気に海賊船長を叩き斬る」

 ほう、勇敢なことだ。仕込み杖、ソード・ケイン。こいつ、おれの過去の親友に似ているな……吹いてみるか。

「死肉喰らい」

 このただ一言のカマ掛けのセリフに、ケインはあからさまにたじろいでいた。この使い手の剣鬼が動揺隠せない。

「なぜその名を知っている?!」

 ジャキにはそれで十分だった。内心賞賛する。ケイン……転生しても、おまえは戦士だよ。めぐり会いの奇跡に感謝を。

 ケインは冷酷な表情となり、吐き捨てた。

「おまえは『籠の鳥』の敵か味方か……」

「さて、ね。おれに手を出したらおれの相棒が黙っていないぞ」

 ゴーストが慌てた様子で声を掛けた。

「ジャキ! いけません、この男は……」

 ケインは声の方向を横見し確認した。

「格納甲板か。まさかのドラゴンとはな」

「おれとフォールの飛竜だ。油断ある者には死あるのみ」

 余裕で語るジャキだったが、ゴーストは断言した。

「ジャキ。この男こそ、我らドラゴンの真の主人です!」

 そうなのか、ソード・ケインが。ふむ、親友は若輩にして潜在性限りないのだな。伝説の剣闘士とやらを倒した力量が知れる。しかし、ケインは魔剣を帯びていないな。とにかく皮肉を込め、恭しく慇懃に問う。

「ではおれ……すべての人間は貴方をマスターと呼ばねばならないかな? ドラゴンドライバー、ケイン?」

「俺は竜騎兵にはならない。聖剣も王都クリス攻略後に封印した。故に独立都市アルセイデスに流れていたのだ……それにしても、竜騎兵ならば海賊など容易い獲物だな。俺の出る幕は無い」

 ゴーストは申し出た。

「ところで相棒、われらドラゴンの脳みそは毒物とされますが」

「それは聞いた。地上最高の珍味だが、食べると発狂するってな」

「それのほんとうは、竜の知性が身に付くのです。古代の光の文明当時の知識を。故に普通の人間は気が狂うとみなされますが、これは、我が相棒なら乗り越えられる試練のはず。わたしが死んだらどうか食べてください」

 相棒を食べる? いくらおれが愛するものを失ったからといって、いくら無神論者だからって、そこまで自棄にはなっていない! 少し前は失うものはないと信じていたが、いまや大切なものに責任がある!

 だから、ふと聞いてみる。

「マドゥ、きみの瞳は聡明ですべての真実を照らすのだろう。このケインどう映る?」

 戸惑ってマドゥは答えた。

「悪魔……に、魂を売った男……」

「だろうな」

 はっと笑うジャキだが、ケインは苦笑して聞いた。

「ほう、面白いな、きみ。誰のことだ?」

「八番目の邪悪に手を染めた悪徳背徳漢、ジャキもケインもだよ」

 うわ! おれもなのか? 無自覚だった……またしてもこんな少女に不覚……伝説の神の手の時代の二千年を離れる寸前、既存の某宗教に曰くの七大邪悪に加えて新たに降臨した神が人から離れた世紀末の人類史上最大の悪徳、『萌』!

 しかし、ケインは昨夜フォールのような少女と寝たが、おれはそんなことしないぞ! 不公平だ! 同じ罪を被るなら、同じ過ちを犯してからだ! ちなみにおれは狼中年としては、親羊より子羊を盗みたい!

 と、馬鹿話をしているうちに海賊船は迫ってきた……下半身でものを考えるのをなんとか止め、みんなに冷静にいるようにさせ、十分に引きつける。ふと、その船は護衛戦艦隊に気付いたのか、回頭して逃げにかかった。させるか。

 ジャキはゴーストに乗り発艦した。フォールのスパイクも続いた。追いかけ、たちまち追いすがる。海賊船は砲門を開きやみくもに発砲してきたが、空を舞う竜騎兵に当たるわけはない。炎を吹きつけ、帆を燃やしてやった。

 決め手だった。海賊船は降伏した。人質が今回もいたら危うかったな、と内心安堵する。とにかく無血勝利だ。

 

(続く)

 

後書き つくづく自分が下劣な人間と解る妄想だな。青年期にアンゴル・モエの大王に魂を売ると不良中年が量産される見事な構図。真似してはいけません。